アンハッピー・ウエディング〜前編〜
何処もかしこも人だらけで、桜の真下の良い場所は、既に別の花見客が陣取っていた。

もっと早めに来るべきだったようだ。

これでも、結構早かったつもりなんだけどな…。

さすがに満開の時期なだけあって、競争率が激しい。

「おい、何処まで行くんだ?」

お嬢さんは一人で、ずんずん歩いていってしまう。

俺はその後ろから、保護者のようについていった。

勝手に進んでいくのは良いが、段々桜の木から離れてないか?

「ここ、ここから見ようよ」
 
お嬢さんが立ち止まったのは、自然公園の中にある、ちょっとした小高い丘のような場所。

辺りには芝生が敷いてあって、ピクニックには最適のようだが…。

桜の木からは、かなり離れているような気がする。

花見に来たのに…こんなところで桜は見えないだろう。

案の定、この付近には花見客もいない。

もしかして、人混みが嫌なんだろうか。

人に埋もれるくらいなら、桜なんて遠目で良いから静かに過ごしたい、って?

その気持ち、分からなくもないが…折角花見に来たんだから。

多少人に埋もれても、もう少し桜の木に近い場所の方が良いんじゃ…。

…と、思ったが。

「見て見てー。綺麗だよ」

「何が…。…って、…おぉ…」

その美しい景色に、思わず言葉を失ってしまった。

確かに、桜の木からは遠いが。

小高い丘の上から見下ろす桜の木立は、大層絵になる眺めであった。

所謂、穴場って奴だな。

どっかの風景画みたいだ。非常に絵になる景色。

「こんなところがあったのか…」

「綺麗でしょ?」

「そうだな」

素直に認めざるを得ない。

桜の木の下も良いけど、ちょっと離れたところから見るのも悪くないな。

知る人ぞ知る穴場スポット。

さすが地元民。良いとこ知ってんな。

「ここでお弁当食べたら、きっと凄く美味しいよ」

「そうだな…。ここに座るか」

「そうしよー」

悪いな、他の花見客の皆さん。

お嬢さんのおすすめスポット、陣取らせてもらうぞ。
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