アンハッピー・ウエディング〜前編〜
雨上がりに夏来たる頃の章5
翌日。遠足の当日。



俺は早起きをして、四人分のお弁当を仕上げていた。

すると。

「悠理君、おはよ〜…」

「おー、おはよう…。早いな、今朝は」

寿々花さんが、眠い目を擦りながら降りてきた。

いつもより、一時間くらい早いぞ。

素直に自分から起きてくるなんて。珍しいこともあるもんだ。

「何だ。遠足が楽しみで、早く目が覚めたのか?」

だとしたらお子様だな、と思ったら。

「ううん、悠理君のお弁当が楽しみで、早く起きたの」

とのこと。

やっぱりお子様だったよ。

あんたな…。普通の人なら、例え日帰りだとしても、豪華客船で遠足なんて人生で一度でも体験出来たら幸せなのに。

あんたが楽しみなのは、船じゃなくて弁当なのか?

「お弁当出来た?もう出来た?」

「あとちょっと…。今作ってるところだよ」

「わーい。楽しみだな〜」

「…」

…あんまり期待するなよ。

如何せん、キャラ弁作りなんて初めてなんだからな。

しかも、電子レンジの化け物のキャラ弁だからな。

なんか、元の体が分からなくなってるけど…もう良いや。

野となれ山となれ。

「作ってるところ覗きたいけど、お昼にお弁当箱を開けるのが楽しみだから、見ないようにしておこうっと…」

そう言って、寿々花さんはくるりと後ろを向いた。

あ、そう…。

そんなに期待されると…プレッシャーが重いんだけど。

弁当箱を開けて、がっかりしても知らないからな。

しかし、寿々花さんは涼しい顔。

「あのねー、悠理君。昨日ね」

「ん?」

「夢を見たんだー。船に乗る夢」

…船に乗る夢?

随分タイムリーな夢を見てんな。

「白い船でね、おっきくて。塔みたいな展望台がついてたんだー。眺めが綺麗だったな」

「ふーん…。夢の中でもクルーズが出来るなんて、あんたは幸せ者だな」

「でも、変な音楽が流れててね、それが何だか気持ち悪くて、途中から気分悪くなった」

そう簡単に、楽しい夢は見させてくれないってか?

変な音楽ねぇ…。一体何処の世界のお話なのやら…。

「悠理君は、昨日何か夢を見た?」

「えぇ?あぁ、うん…見たけど」

「どんな夢?」

…。

…遠足で動物園に行ったら、ツチノコ餌やり体験ってのをやっててさ。

ツチノコに餌をやろうと厩舎に入ったら、大量のツチノコに取り囲まれて、必死に逃げ惑ってる夢だったよ。

全く、ろくな夢じゃない。

寿々花さんが変なこと言うからだよ。動物園にツチノコやらケセランパサランがいるなんて。

いねーから。

「…まぁ、大した夢じゃないよ」

「そっかー」

…そんなことより。

そうこう言ってるうちに、お弁当完成。

我ながら…。…我ながら…うん。

…なんか、思ってたのと若干違う気がしないでもない…が。

…まぁ、このキャラ弁、食べるの俺じゃないし。

「寿々花さん、お弁当出来たよ」

「本当?やったー。楽しみ」

蓋を開けて、びっくり仰天して周囲を驚かせなければ良いのだが。

くれぐれも一人で食べてくれよ。一人でな。誰にも見られないように。
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