アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「暑い。めっちゃ暑い!死にそう!」

「…言うな…」

余計暑くなるだろ。

今日は朝から、雲一つない晴天。

遠足日和と言えば聞こえは良いが、要するにめっちゃ暑い。

こんな中を歩かせるとか、どんな拷問だよ。

「あ、あとどれくらいで着くんだよ…!?」

「徒歩50分って言ってましたから、あと30分はありますね」

「なげーよ!」

徒歩50分って、結構長いぞ。

車で行ったら10分程度なのかもしれないが。

たかが50分?って思った奴。

ちょっと今すぐ外に出て、50分近所を歩いてみろよ。

しかも、炎天下の中な。

そうしたら、今の俺達の気持ちが分かるだろうよ。

行きだけじゃないからな。帰りもあるからな。忘れちゃいけないけど。

往復一時間半ちょっと、ってところか。

で、恐らく動物園の中でも、あちこち歩き回ることになるんだろ?

地獄かよ。

「こんなことなら、普段の授業受けてた方がマシなんじゃね…!?」

雛堂がそう言いたくなるのも分かる。

教室の中だって充分暑いけど、少なくとも日差しを遮る屋根はあるし。

第一、授業受けてたら、歩かされる必要はないもんな。

本当。こんなことならいつも通り授業受けて、昼にちょっと豪華なお弁当食べる方がマシだった。

「二人共だらしないですね。これだから人間は軟弱なんです」

「あ…?」

イラッとして、乙無の方を見ると。

クラスメイト皆、汗だくではーはー言いながら歩いているのに。

乙無だけは、涼しい顔をして汗一つかいていなかった。

それどころか、未だに長袖のシャツ着てるしな。

あんた、夏服はどうしたよ?

「暑くないのかよ…?」

「お忘れですか。僕は邪神の眷属…。人間とは似て非なるもの」

あ、そう…。

「僕の両腕には、眷属としての罪の証が刻まれている…。従って、人目に晒す訳にはいかないんです」

それで、夏だってのに頑なに半袖我慢してんの?

多分、めっちゃ痩せ我慢してるんだと思う。

熱中症で倒れても、介抱しないからな。

ほっとこ。

…今頃寿々花さん、船に乗ってんのかなぁ。

きっと涼しいんだろうな。プールや温泉もあるって言ってたし…。

…しかし寿々花さんは、船の中で何をして過ごすんだろうな?

水着やドレスを持っていった気配はなかったが、プールに入ったり、社交ダンス教室に行くつもりはないんだろうか…。

と、寿々花さんのことを考えていると。

「なぁ、星見の兄さんよ」

「あ…?」

「自分ら、今こうやって死にそうな目に遭いながら歩いてるけどさぁ…。女子部にいる嫁ちゃんも、今頃遠足なんだろ?」

「…そうだけど」

「参考までに聞きたいんだけど、女子部の連中は遠足、何処に行ってんの?星見の兄さん、その辺のこと聞いてる?」

「…」

…それは…。

…多分、今聞かない方が良いと思うぞ。

聞いたら多分、余計足が重くなること間違いなし。
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