アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「お嬢様だからな〜。楽しいとこ行ってんだろうな。ハムスターランドとか?」

と、雛堂。

ハムスターランドだったら、寿々花さんももっと喜んでただろうな。

「遊びに行くところより、観に行くところなんじゃないですか?国内外様々な品種の薔薇が咲いている植物園とか」

と、乙無。

乙無、あんたニアピンだよ。

女子部一年生は果樹園だから。

さすがにこの二人も、女子生徒達が遠足でクルーズ船に乗ってるとは思ってないだろうな…。

「で、何処なん?星見の兄さん」

「…聞いたら、多分これ以上歩きたくなくなると思うけど…」

それでも聞くのか?

「ちょ、何だよ。そう言われたら余計気になるじゃん。言えよ」

そう。後悔しないな?

じゃあ言うよ。

「船に乗るんだって」

「…へ?」

「豪華客船『ブルーローズ・ドリーム号』とかいう、でっかい船」

「…」

これには、雛堂も目を点にしていた。

俺も寿々花さんから遠足の行き先を聞かされたとき、こんな顔してたんだろうなぁ…。

「船…。クルーズ…!?」

「予想の遥か上を行ってましたね」

だろ?

だから、聞かない方が良いって言ったんだよ。

「自分らが、小一時間も歩いてサル山を見に行こうとしてんのに…お嬢様方は優雅に船の上かよ…!?」

そうらしいよ。

寿々花さん曰く、動物園の方が良かったらしいけどな。

罰当たり過ぎるだろ。

「自分なんか、クルーズ船どころか…そこらのオンボロ漁船にさえ乗ったことないんだぞ…!?」

「…俺もだよ…」

「僕は乗ったことありますよ、船。『ノアの方舟』に…」

あーはいはい。そういう実在しない船のことは良いから。

擁するに俺達三人共、船旅なんてしたことないって訳ね。

まぁ、うちのクラスの人間は、大半がそうなんじゃないの?

クルーズ旅行なんて、上級国民にしか手が届かないものだと思う。

「それ、もう遠足じゃねーじゃん。旅行じゃん。日帰り旅行」

「俺もそう思った…。日帰り旅行にしてもランク高いけどな」

「まぁ、入学オリエンテーションで京都旅行に行くくらいですからね。ただの遠足でも、我々とは全くスケールが違いますよ」

「一学年全員船に乗せる金があるなら、自分らのバス代くらい出してくれよ」

本当それな。

皆でストライキ起こそうぜ。バスに乗せてくれるまで動きません!ってさ。

…まぁ、無駄なんだけど。

「畜生…。酷ぇ話だぜ…」

…な?聞かなきゃ良かっただろ?

やっぱり、余計足が重くなってきた気がするよ。
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