アンハッピー・ウエディング〜前編〜
別に爬虫類なんて興味ないし、このまま施設に入らずに集合時間を待ってても良い。

一時間近く歩いてきて、疲れてるしな。

とりあえず腰を下ろして休みたいっていうのが本音。

「…外で待ってるのもアレだし、まず中に入ろうか」

「…だな」

少なくとも建物の中に入ったら、エアコンは効いているだろう。

俺と雛堂と乙無は、三人で建物の中に入った。

「あー、涼しっ…。生き返る〜」

「全くだな…」

エアコン万歳。

俺達は、真っ直ぐロビーのソファに腰掛けた。

はー。疲れた。

水筒、持ってきておいて良かった。

まさかこんなに歩かされることになるとは。

雛堂も、施設の入口にあった自販機で冷たいお茶を買ってきて飲んでいた。

俺や雛堂だけじゃなくて、クラスメイトは皆そうしていた。

こんなに暑いのに、水分補給すらしてないのは乙無だけだよ。

曰く、邪神の眷属には水分補給なんて必要ないんだって。

そういう設定なのな。はいはい。

痩せ我慢するのは良いけど、マジで倒れるなよ。

「あ〜…もう、まじつっかれた…」

「…」

「もう、集合時間までずっとここで待ってて良いんじゃねぇかな?」

…俺もそう思った。

そう思った…けども。

「…入館料払ってるのに、ロビーでずっと待ってるのも勿体なくね?」

「それは…まぁ、そうなんだけど…」

「…つーか俺、お土産買って帰るって約束しちゃったんだよな…」

寿々花さんにさ。お土産。

寿々花さんも船の中で、俺にお土産買ってくるって言ってたし。

俺だけ手ぶらで帰る訳にはいかないじゃん。さすがに。

「お土産…売ってんのかな?ここ…」

「どうやら、順路の最後に売店があるみたいですね」

乙無が、館内マップを見ながら言った。

…ってことは、お土産を買いたかったら、興味なくても一通り見て回れってことか…。

…成程。大人しく座って待たせてはくれないらしいな。

分かったよ。

「…俺、ちょっと行ってくるよ」

と言って、俺はソファから立ち上がった。

まだ疲れてるけどさ。ぶっちゃけ、あと30分くらいここで休んでたいけど。

寿々花さんにお土産を買うなら、急いで行った方が良い。

後で時間、なくなったら困るし。

「二人共、休んでたいならここで待っててくれ。俺は一人で…」

「おいおい、待てって。星見の兄さんが行くなら、自分らも行くよ」

そう言って、雛堂もソファから立ち上がった。

「疲れてるんじゃないのか?」

「疲れてるけど。星見の兄さん一人に行かせるのもアレだし。一緒に行くよ」

「僕は別に構いせんよ。僕は人間じゃないので、小一時間歩いたところで全く疲れてませんから」

…とのこと。

…なんつーか、悪いな。付き合わせたみたいで。

「悪いな…」

「良いってことよ。それに、折角ここまで歩いてきたんだ。何が展示されてんのか、拝んでやろうじゃないの」

…分かったよ。

じゃあ、こうなったら…やけっぱちとばかりに、爬虫類の館を満喫するとしよう。
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