アンハッピー・ウエディング〜前編〜
受付に入場チケットを見せて、俺達は館内の順路を回り始めた。

…しっかし、何やってんだろうな?俺達。

冷静に考えると、すげー馬鹿馬鹿しいことやってる気がする。

寿々花さん達が、今頃船の上で優雅にプールやショーを楽しんでるってときに。

俺達野郎共は、炎天下の中小一時間歩いて、爬虫類の館に辿り着いた。

この落差よ。

帰って寿々花さんに、何と言って説明すれば良いのか。

普通の動物園だと思ってたのに、とんだ変化球を食らった気分だ。

うん。もう考えるのやめよう。

ここまで来たからには、純粋に爬虫類の館を楽しんでいくよ。

「えーと…まずはヘビエリアだってよ」

「ヘビねぇ…。抜け殻でも飾ってんのかね?」

財布に入れとくと金運が上がるって言うけど、あれは本当なんだろうか。

そんなことを考えながら、まず最初のヘビエリアに入る。

すると。

「…あれっ…」

「…」

…なんか、思ってたのとちょっと違うぞ。

てっきり、剥製とかヘビの脱け殻なんかが飾ってあるのかと思ったら…。

普通に、ガラスのでっかい檻があって。

そこに、生きている本物のヘビが展示されていた。

動物園と言うより、水族館みたいな感じ?

まぁ、中にいるのは海洋生物じゃなくて爬虫類なんだけど…。

「やっぱり、ある意味動物園ですね。あながち嘘じゃなかったということで…」

「…爬虫類の動物園ってことか?それならそうと言ってくれよな…」

爬虫類の動物園…ねぇ。

普通の動物園では、あんまり見ないよな。ヘビ…。

いたとしても、やっぱりゾウやキリンやライオンに比べたら、影が薄いって言うか…。

花形の動物がいないよな。

「…素朴な疑問なんだが、爬虫類って何?」

「…」

雛堂の問いに、俺は即答することが出来なかった。

えーと…。爬虫類ね。

俺もよく知らない。理科の授業で習ったことあるような気がする。

哺乳類との違いとか。特徴とか…。

あんまり覚えてないんだけど…。

なんか、一般的に「グロい」と言われる動物は、大半この爬虫類だったような…そんな勝手なイメージがある。

爬虫類好きな人、ごめんな。

「ヘビとか…トカゲとかじゃなかったっけ。爬虫類って」

「イモリとか?」

「イモリは両生類ですよ。爬虫類なのはヤモリです」

そうだっけ。乙無、よく知ってんな。

さすが邪神の眷属様だ。

「なんか、暑いところに住んでそうなイメージあるよな」

「分かる」

「そして、毒を持ってそうなイメージもある」

「分かる」

俺も雛堂も、勝手なイメージだけで爬虫類を判別しようとしている。

しょうがないだろ。よっぽど爬虫類が好きな人でもなければ、爬虫類の生態なんて知らないよ。

え?そんなこと一般常識だろって?

悪かったな、常識なくて。

「ヘビなんて、どれも似たようなもんだろ?別に大して見るものじゃ…」

「ぴー、ぴー。今、聞き捨てならないことを耳にしました。ぴー、ぴー」

「!?」

突如として、俺でも雛堂でも乙無でもない、女性の声がして。

俺達は、びっくりして声の主を振り返った。
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