アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「良い景色だな…。俺の地元にこんなスポットは無、」

「お弁当食べよー」

「…あんた、風情もクソもないな…」

典型的な、花より団子タイプ。

いっそ清々しい。

そりゃお嬢さんは昨日も見に来てるし、そもそも地元民だから、毎年見られるんだろうから。

桜の景色なんて、そんなに物珍しくもないかもしれないけどさ。

俺の地元には、ましてや学校の近くに、こんな桜の名所は存在しなかった。

もうちょっと楽しませてくれよ。景色を。

風情ってものがない。風情ってものが。

…まぁいっか。あんまりのんびりして、これ以上人が増えたら忙しないしな。

今はこの丘も静かだけど、昼頃になったらもっと花見客が増えて、ここも騒がしくなりそうだし。

そうなる前に、さっさと弁当食べておくか。

何より、お嬢さんが楽しみにしてるみたいだし。

ちょっと早いけど、お昼にしようか。

持参したお手拭きで手を拭いて、早速お弁当タイム。

「もぐもぐ。サンドイッチ美味しいね」

桜の景色はそっちのけで、お嬢さんはサンドイッチを頬張っていた。

良い食べっぷりだよ。

この三日間、お嬢さんと一緒に過ごしてつくづく思うけども。

この人、何を出しても美味しそうに食べるんだよな。

御本人の料理の腕は死んでるが、何でも美味しそうに食べてくれるのは、料理を作る側としては結構有り難い。

作り甲斐があるから。

「あ、こっちは中身が違う。こっちも美味しいね」

本日のサンドイッチの中身は、三種類。

ハムサンドとツナサンドと、カツサンドである。

それに、卵焼きやミニハンバーグなどのおかずを詰めてみた。

お弁当のおかずとしては、何の変哲もない…と言われたら言い返せないが。

何の変哲もないくらいが、丁度良いだろう?

万人受けしそうで。

「…そういや、あんた嫌いなものとかないのか?」

ふと思いついて、そう尋ねた。

これ、初日に聞いておけば良かったな。

結構色々作っちゃったよ。もう。

「え、嫌いなもの…?…宿題と目覚まし時計が嫌い」

「違う。そういう意味じゃない」

それは誰だって嫌いだよ。好きな奴居るのか?

「食べ物だよ、食べ物。嫌いな食べ物はあるのかって質問だ」
 
「嫌いな食べ物?うーん…ちょっとしかないよ」

そうなのか。

ちょっとはあるんだな。つまり。

まぁ、誰しも嫌いな食べ物くらいあるだろう。

「悠理君は、何か嫌いなものあるの?」

「あるよ。生牡蠣」

「…柿?」

「海の方の牡蠣。木になる方じゃなくて」

「あ、そっちかー」

そう、そっちだよ。

ちゃんと分かってるか?

「美味しいのに。何で駄目なの?」

「美味しいのは分かってるけどさ…。以前生牡蠣で酷く当たったことがあって、あれ以来どうも食べる気にならない」

「成程」

牡蠣を嫌いになる人の典型、みたいな理由で申し訳ない。

相当酷く当たったからな、俺。病院のお世話になったの、今でも覚えてるよ。

もう一回あんな思いをするくらいなら、もう二度と食べたくない。

ごめんな、牡蠣好きな人。美味しいのは分かってるんだけど。
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