アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「牡蠣が駄目なのかー。悠理君も、結構可愛いところがあるんだね」

「…」

…なんか、ムカッ。

このお嬢さんに子供扱いされるのは、どうも…。

いや、俺の方が一つ年下なんだから、多少子供扱いされても無理ないかもしれないけど…。

生活力皆無のあんたにだけは言われたくない。

「そういうあんたは、何が苦手なんだよ？」

ちょっとしかない、ってことは。

ちょっとはあるんだろ？苦手なもの。

今後の食事作りの参考にするから、今のうちに教えておいてくれ。

初日に聞くべきだったんだろうけどな。こういうことは。

「私の嫌いなもの？…えーっとね、ピーマン」

「…あ、そう…」

ピーマン苦手とか、そっちの方が子供っぽくね？

俺も小さい頃は苦手だったから、あんまり強くは言えない。

「あとね、きのこ」

あー、うん。きのこね。

分からんでもない。食感がなんか…むにょむにょしてて無理、って言ってる人がいたの、聞いたことがある。

色合いも地味だもんな。

出汁が出て美味しいんだけどな…。

「それから、トマト」

トマト無理なの？それは知らなかった。

昨日の生野菜のサラダに、トマト入れなくて良かった。

どうしようかなと思ったんだけど、思いの外近所のスーパーのトマト、結構高かったから。

買わなくて正解だったな。

「あと、ナスビも苦手かなー」

とのこと。

ナスビ…小学校の時、ナスビ嫌いだって言ってる奴いたな。

色が嫌いなんだって。暗い紫色で。

おまけに、食感もドロッとしてて受け付けないそうだ。

焼きナスに鰹節とポン酢かけて食べたら、最高に美味いと思うんだけどなぁ。

「それから、えーっと…。大葉と春菊と長ネギと、セロリとゴーヤとアボカドとー」

出るわ出るわ、次から次へと。

あんたさっき、「ちょっと」って言わなかった？

そんだけあったら、「めちゃくちゃある」だろうがよ。

おまけに、全部野菜。

むしろ、食べられる野菜は何なんだ？って思うくらい。

「あ、それとね。にんじんも嫌い」

ガキかよ。

一般的に、子供が嫌うであろう野菜全般が駄目ならしい。

「でもね、星型のにんじんなら食べられるよ」

ドヤッ。

星型にんじんで威張るな。

「この…子供舌め…」

そんなに嫌いな野菜多いのかよ。

そういや、一昨日のオムライスも、昨日の親子丼も、今朝のサンドイッチも…。

奇跡的に、今お嬢さんが嫌いだと言った野菜は、使ってなかったな。

成程、それで何でもばくばく食べてるように見えてただけで。

実はこんなに嫌いなものがあったのか…。

良かった。早いうちに知ることが出来て…。

…って、それはいくらなんでも多過ぎだろ。

そんな、あれもこれも駄目って言われたらさ…。

料理の幅が…。料理の幅がめちゃくちゃ狭まるんだけど？