アンハッピー・ウエディング〜前編〜
遠足が終わった、次の水曜日のこと。

「あら、ごきげんよう。悠理さん」

「…どうも…」

放課後に、俺はいつも通り新校舎の花壇に向かった。

そこには小花衣先輩が、ホースで花に水をやっていた。

にっこり微笑む小花衣先輩に挨拶をしてから。

こちらから話しかけようと思ったら、その前に小花衣先輩の方から口を開いた。

「悠理さん、今日はあなたに渡そうと思っていたものがあるの」

「え?」

「大したものではないのだけど…。これ、この間の遠足のお土産よ」

なんと。

小花衣先輩は、クルーズ船の青い薔薇のロゴが入ったビニール袋を差し出した。

「あ、ありがとうございます」

「いいえ、どういたしまして」

にこっ、と微笑む小花衣先輩。

…クルーズ船のお土産…か。

「ちなみに、これ…中身は…?」

「紅茶とクッキーのセットなんだけど、紅茶はお嫌いかしら」

「あ、いえそんなことないです。ありがとうございます」

この、まともなお土産のチョイスよ。 

涙出そうになるよな。あまりにもまともで。

外国産のインスタントラーメンをしこたま買ってきた、何処かの誰かさんにも見習って欲しい。

「『ブルーローズ・ドリーム号』ってご存知?クルーズ船なのだけど」

「あ、えと…き、聞いたことくらいは…」

「私の学年は、そのクルーズ船に乗って一日を過ごしたの。ダンスルームで外国の方と踊ったり、素敵なミュージカルを観たり…。とても楽しかったわ」

「…」

なんて健全な過ごし方なんだ。

船の中で、外国のホラー映画を観ていたどっかの誰かさんとは大違い。

「お土産ショップでショッピングを楽しんだりね。外国産のお土産がたくさんあって、目移りしてしまいそうだったわ」

「そ、そうですか…」

そのお土産ショップで、このお土産も選んできてくれたんだな。

…しかし。

あまりにもまともで、気の利いたお土産をもらってしまったせいで。

こちらから切り出すのが、ちょっと気まずいって言うか…恥ずかしい。

でも、買ってきたからには渡さない訳にもいかず。

えぇい。仕方ない。

「えっと…。実は、俺も小花衣先輩に、遠足のお土産を買ってきてて…」

「まぁ、本当?嬉しいわ」

「…」

この間、俺と寿々花さんがハムスターランド旅行行ってた時にさ。

小花衣先輩、海外旅行のお土産を俺にくれただろ?

だから、その時のお礼も兼ねて…今度何処か観光地に行ったら、小花衣先輩にもお土産買ってこようと思ってたんだよ。

…まぁ、まさか『爬虫類の館』でお土産を買う羽目になるとは思ってなかったけど。

俺が先に渡す前に、小花衣先輩の方から遠足のお土産をもらってしまうとは、予想外だった。

なまじ、凄いまともなお土産もらっちゃったからさぁ…。

出しにくい。凄く出しにくい。

「何かしら。チョコレート?バームクーヘン?チーズケーキとか?」

「…クッキーです」

「あら、クッキー?嬉しいわ。私、クッキー大好きなの」

…ワニクッキーですけどね。これ。
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