アンハッピー・ウエディング〜前編〜
明日忙しいって答えたのは、口から出任せなんだが。

明日って、花火大会なの?

『…ん?何ぽけーっとしてんの?もしかして、花火大会のこと知らなかったのか?』

ぎくっ。

電話越しだというのに、鋭いじゃないか。

「あぁ。初耳だよ」

『まー、星見の兄さん、この辺地元じゃないもんな…知らないのも無理ないか』

「明日、花火大会なのか?」

『そだよ。毎年、この時期になると河川敷で花火が上がんの。そこそこおっきい祭りなんだぜ』

へぇ、そうなんだ。

そういや、街の掲示板に「花火大会のお知らせ」みたいなの貼ってあったっけ。

自分には関係ないと思ってたから、全然見てなかった。

あれ、明日なんだ。

『星見の兄さん、暇だろうと思ったからさー。誘おうと思ったんだわ』

とのこと。

『でも、星見の兄さんには嫁ちゃんがいるからなー。嫁ちゃんと行くの?デート?花火大会デート?』

うるせぇ。茶化すな。

寿々花さんなぁ…。花火大会のこと知ってんのかな?あの人。

ああ見えて人見知りっぽいところあるから、あんまり人混みに出掛けるのは…。

いや、でも。

動物園とか水族館とか、子供っぽい場所に喜ぶ寿々花さんのこと。

花火大会も、実は行きたいのかも。

「さぁ…。ちょっと聞いてみるよ」

『おう。もし行かねぇって言われたら、自分らと行こうぜ!』

…自分「ら」?ってことは。

「乙無も誘ったのか。あいつ、来るって?」

『あー。さっき電話したんだけどさー。今忙しいのに、って怒られてよ』

当たり前だろ。

何時だと思ってんだ、今。早朝だぞ。

『眷属様のお仕事で忙しいって言ってたから、とりあえず集合場所と時間だけ伝えて切っといたわ』

「…」

…つまり、一方的に集合場所と集合時間だけ伝えて切ったってことだよな。

それ、ちゃんと乙無に伝わってるか?

明日、待ち合わせ場所で一人で、延々乙無が来るのを待つことになっても知らないぞ。

強引にも程があるだろ。

『そんじゃ、前向きに検討してくれよな。おやすみー』

「おやすみって、あんた…。今、朝だろ」

おはようの時間だろ。

しかし。

『あぁ、実は昨日チビ共がお泊りでいなくてさー。昨日夜通し映画観てたから、自分、これから寝るんだわ』

そういうことかよ。それでおやすみって。

夏休みだからって、昼夜逆転した生活をするのは良くないと思う。

新学期になってから、身体がついていかなくなっても知らないぞ。

『ってな訳で、おやすみー』

「はいはい、おやすみ…」

ピッ、と通話を切る。

…雛堂はこれから寝るのかもしれないが、俺は雛堂に電話で起こされたせいで、もう眠れないよ。

あの野郎…。イタ電して睡眠妨害してやろうか。

…ま、いっか。これ以上眠れないし。もう起きるか。
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