アンハッピー・ウエディング〜前編〜
こんな、いかにも怪しそうなラーメン。

俺は要らない、と突き返せたら良かったんだけどな。

寿々花さんが「食べる」って言ってるのに、俺だけ食べない訳にはいかないじゃん。

捨てるの勿体ないしな。これでも、一応食べ物なんだし。

めちゃくちゃ空腹な時に食べたら、案外美味しく感じるんじゃね?

空腹は最高のスパイス、って言うし。

「…よし、分かったよ」

とりあえず…トッピングとして用意した、ネギと茹で卵を乗せて。

覚悟を決めて、食卓に持っていく。

「いただきまーす」

寿々花さん、何の躊躇いもなく箸をつける。

勇者か、あんたは。

森に生えてる怪しいきのことか、平気で口に入れるタイプ?

正体の知れないきのこを、妄りに食べるんじゃないぞ。毒が入ってたらどうするんだ。

「…どう?美味い?」

自分で口をつける勇気がない俺は、先に寿々花さんに味の感想を求めた。

「うーん。…うーん…?…うーん…」

寿々花さんは難しそうな顔で、右に首を傾げ、左に首を傾げ。

そして。

「よく分かんない」

…とのこと。

あんたに、まともな食レポを求めた俺が馬鹿だったよ。

畜生…。結局は、自分で食べて確かめるしかないってことか…。

いかにもヤバそうな香りだけど、本当に大丈夫だよな…?

この間の、ピンク色のスープのインスタントラーメンあっただろ。あれよりヤバい。

スープの色は濃い緑色で、ドロッとしたスープに灰色っぽいちぢれ麺が浮かんでいる。

…原材料何なの?これ。米?小麦粉?じゃがいも?

分からないけど、寿々花さんは割と普通にずるずる食べていた。

ってことは、食べてみたら意外と悪くない…のかも?

…よし。

寿々花さんがこれほどワイルドに、豪快に謎インスタントラーメンを食べてるのに。

男である俺が、いつまでもビビって尻込みしてるのは格好悪いだろ。

俺も覚悟を決めて…食べてみるよ。

「…もぐ」

スープと一緒に麺を啜り、口の中に入れて咀嚼。

まず口の中いっぱいに異臭が広がり。

同時に強いえぐみと、薬みたいな味が舌をつく。

成程。どう前向きに解釈しても、これは不味い。

口の中に入れた途端、深く後悔した。

俺やっぱり、これ無理だ。

生物の本能として、命の危機を感じた。

これは食べ物ではない。やめろ、今すぐこの異物を吐き出せと脳みそが命令した。

しかし、その異物を口から吐き出す前に、あまりの臭気とあまりの不味さに、目の前が真っ暗になった。

「…あれ?悠理君。悠理くーん?」

遠くから、寿々花さんが呼ぶ声が聴こえたような気がしたが。

俺の意識は急速に遠退き、そのまま失神した。

薄れる意識の中で思った。

あぁ、気絶するほど不味いって、こういうことなんだなぁって。
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