アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「…はぁ…疲れた…」

生ゴミラーメンを片付けて、ようやく落ち着いてソファに座った。

ただインスタントラーメンを作っただけなのに、何故こんなにぐったり疲れなきゃいけないのか。

一時間近くも気を失っていたのだから、そりゃ疲れもするだろう。

結局、お昼ご飯食べ損なってるしさ。

どうしよう。

何か食べた方が良いんだろうけど、さっき気を失ったばかりだしな…。

重湯…。重湯とかから始めるべきだろうか。胃がびっくりしないように。

よし、そうしよう。

俺は再びキッチンに立って、重湯を作った。

寿々花さん、結局半分近くあのラーメン食べてたけど、胃の調子は大丈夫なんだろうか。

寿々花さんの分も重湯を用意して、出来上がったからテーブルに運ぼう…と、思ったその時。

「あ、誰か来たよ」

「…そうだな」

我が家のインターホンが鳴り響いた。

どうやら、来客のようだ。

…。

…なぁ、これヤバくね?

さっきから、ずっと恐れていたことが…ついに現実になったのでは?

もしかして、玄関のドアを開けたら警察官が立ってたりする?

「お宅から異臭がする、と住民から通報があって…」みたいな。

その時俺は、どう説明したら良いんだよ。

「実は外国のインスタントラーメンが、とんでもない地雷で…」って言えば良いの?

信じてもらえるのか。それって。

…信じてもらえなかったら、さっきの生ゴミを入れた袋を調べてもらうよ。

動かぬ証拠、って奴だ。

何なら俺の代わりに、このラーメンの正体が何なのかを調べてくれ。

こんな下らないことで、忙しいところわざわざお越し頂いた警察官の方に、どう言って詫びれば良いんだよ。

居留守を使いたかったが、それはそれで己の罪から逃げている気がする。

俺が悪いんじゃないけど。

待て。まだ警察官とは限らないじゃないか。

近所の人かもしれない。「さっきから凄い匂いがするけど、何やってるの?」とか。

あるいは、「くせーんだよ、このスメハラ一家!他所に引っ越せ!」って怒鳴られるんだろうか。

そうなったら、俺はもう寿々花さんと一緒に、玄関先で土下座するしかない。

人生初の土下座の元凶がインスタントラーメンって、俺の人生どうなってんだよ。

…ともかく。

「ちょっと…出てくる」

「うん」

もし、近所の人が怒りの訪問をしに来たのなら。

寿々花さんを巻き込む訳にはいかないので、俺が先に出ることにしよう。

…しかし。

「…はい、どちら様…」

恐る恐る、玄関の扉を開けて見ると。

そこに立っていたのは、警察官でも近所の人でもなく。

全く予想もしていなかった人物。

「…久し振りね、悠理」

「えっ…母さん?」

突然やって来た、懐かしい母親の顔を見て。

俺は、思わず目が点になってしまった。
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