アンハッピー・ウエディング〜前編〜
そ…。

…そう来たか。

ま、まぁ…あまりの劇臭に激怒した近所の住民じゃなくて良かった。

…しかし、何だってまぁ、いきなり…。

「どうしてここに…?俺の方から、実家に顔出すつもりだったのに」

まさか、母さんの方からここを訪ねてくるとは。

勿論アポ無しで、事前連絡は一切なかった。

「そうなんだけど、でも、今日偶然近くに来たものだから…」

「あ、そう…」

「家に居てくれて良かった。ケーキ、買ってきたの」

と言って、母さんは持ってきたケーキの白いビニール袋を見せた。

とにかく。

「外暑かっただろ?中に…」

「…入っても良いの?その…寿々花お嬢様が…」

あー、うん。成程。

この家は俺の家じゃなく、俺の実質的ご主人様である寿々花さんの家だ。

その寿々花さんの許可なく、勝手に家に上がっても良いのか。

そう聞きたいんだろうな。

俺だって、ここに来たばかりの頃だったら…母さんをこの家に上げるのは躊躇われただろうし。

その必要があるときは、寿々花さんにお伺いを立てて、許可をもらってからにしただろう。

が、今は…。その必要がないことを知っている。

「大丈夫。気にしなくて良いから、入って」

「…本当に?…それじゃあ…お邪魔します」

はいはい、どうぞ。

って、俺の家ではないけどな。

でも今は、俺が友人や家族を家に上げたくらいで、寿々花さんが目くじらを立てることはないと分かっている。
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