アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「…」

母さんの、この心配そうな顔。

息子の食生活を心配してる顔だよ、これは。

「この子、ちゃんとまともなもの食べてるのかしら」って思ってるに違いない。

食べてるよ。マジで。

今日だけなんだって。こんなイレギュラーは。

「まさか、寿々花お嬢様に意地悪されてるんじゃ…」

「え?いや、違っ…。それは誤解…」

と、言いかけたその時。

何とも間の悪いことに。

「悠理くーん。さっきのお客さんって誰…」

…来ちゃった。寿々花さんが。

寿々花さんは、初めて見る俺の母親を見てびくっ、として。

「…」

無言でしばし見つめてから。

すすす、と俺の後ろに隠れてしまった。

…人見知り、発動。

「知らない人。誰…?悠理君のお友達…?」

いや、さすがにこんな年上の友達はいないから…。

「母さん…。俺の母親だよ」

「えっ。悠理君のお母さん?」

「そう。近くに来たから寄ってくれたんだって」

ケーキを持ってな。

「…」

俺の母親だと聞いて、ちょっと警戒心が解けたのか。

寿々花さんは俺の背中に隠れたまま、顔だけちょこっと出して、母さんを見つめていた。

…挙動不審だなぁ…。

「何て言えば良いんだっけ。…いつも悠理君がお世話になってます…?」

「…お世話をしてるのは俺だけどな…」

分かったから、ちょっと離れてくれって。

コーヒー淹れられないじゃん。

「寿々花さんも飲むか?コーヒー」

「でも、悠理君はお母さんと二人でお話するんでしょ?」

いや、別にそういう訳じゃ。

「…いいえ、良かったら寿々花お嬢様もご一緒に。ケーキを買ってきたんです」

母さんが自ら、そう言って寿々花さんを誘った。

「…良いの?私、一緒に居ても良い?」

「良いよ。良いから、俺の背中から離れて…。コーヒー淹れるの手伝ってくれるか」

「うん、良いよー。お客様のおもてなし〜」

こんな異臭漂う家でおもてなしなんて、本当にもてなす気あるのか、って思われそうだけどな。

作ったばかりの重湯は、一旦冷蔵庫に下げて。

人数分のコーヒーと、ケーキの取り皿とフォークを用意し、テーブルに運んだ。

コーヒーの匂いと謎インスタントラーメンの匂いが混ざり合って、家の中がもう、何とも言えないカオスな匂いになっている。

異臭騒ぎが外に漏れないか、切実に心配だよ。俺は。
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