アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「はい、どうぞ」

母さんが、持ってきたケーキの箱を開けてくれた。

中には、数種類のカットケーキが入ってきた。

どれもこれも、いかにも高そうで美味しそうだが…。

…よく見たら、これ。

「これ、あの駅前のケーキ屋のケーキじゃん」

「そうよ」

駅前って言っても、うちの地元の駅ってことな。

そのケーキ屋、地元でもかなり有名なお店で。

美味しいんだけど、それなりのお値段がするので、あまり気軽に買いに行ける店ではなかった。

俺が地元にいたときも、滅多に行ったことはない。

精々、誕生日のケーキを買いに行ったときくらい…。

「せめてこれくらいのものを買わないと、寿々花お嬢様のお口に合わないかと思って…」

いや、その心配は全くない。

駄菓子の綿あめや、俺の手作りのりんご飴で大喜びしてるような人だから。

しかもさっき、あの謎インスタントラーメンを普通に食べてたからな。

食べ物なら何でも美味しく食べられる。まさに雑食系お嬢様。

「…それに、もうすぐ悠理の誕生日でしょう?だから、誕生日祝いも兼ねて」

あー…。そういうことだったか。

そういや、そんな時期だもんな…。

「えっ、悠理君誕生日なの?」

一心不乱に、コーヒーの中に砂糖を入れていた寿々花さんが、びっくりして手を止めた。

…砂糖入れ過ぎだろ。それ。

元のコーヒーの味、分からなくなってないか?

「あぁ。もうすぐ…。丁度、来週の頭だな」

「そうだったんだ…!いつだろうと思ってたけど、そんなに近かったんだね」

「あぁ。まぁ…」

「教えてくれたら良かったのに。忘れないように、書いておかないと」

寿々花さんは立ち上がって、マジックペンを取り。

リビングのカレンダーの、俺の誕生日の日付欄に、「ゆうり君のたんじょうび」と書き込んでいた。

「誕生日」くらい、漢字で書きなさい。

…それはそれとして、なんか小っ恥ずかしいんだけど。

別に書かなくて良いだろ。

「悠理君のお誕生日かぁ…。何歳になるの?」

「16だけど…」

「じゃあ、マッチ16本用意しないとね」

ろうそくにしてくれないかな。

あと、16本も要らないから。ハリネズミみたいになるぞ、ケーキが。

「誕生日おめでとう、悠理君」

「ありがとう。まだだけどな」

その言葉は、是非来週頭に言ってくれないか。

今言われても。まだ早いって。

…それよりも。

「先にケーキ食べようぜ。折角母さんが持ってきてくれたんだから」

「うん、食べるー」

「寿々花さん、どれが良い?」

「えーっと…。悠理君はどれが良いの?」

え、俺?

俺は…そうだな。

「チーズケーキかな…。この店、特にチーズケーキが美味しいから」

「じゃあ、私も悠理君と一緒のが良い」

真似っ子かよ。

まぁ良いけど。幸い、チーズケーキは二つ買ってきてくれてるし。

「じゃあ、チーズケーキ二つもらうよ」 

「はいはい、どうぞ」

母さんに断ってから、俺は自分の分と寿々花さんの分、チーズケーキを取り皿に移した。
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