アンハッピー・ウエディング〜前編〜
それからしばらく他愛のない話をして、日が暮れる前に母さんは帰っていった。

その頃には、ようやく脱臭剤が効果を発揮したのか。

家の中の異臭が、かなりマシになってきた。

やれやれ。どうやら異臭騒ぎで通報は免れたようだ。

しかし恐ろしいのは、寿々花さんが遠足のお土産に買ってきた外国のインスタントラーメン。

まだ残ってるんだよ。別の味が。戸棚の中に。

あれを開封する時は来るのだろうか。何だか恐ろしくて、開ける気にならない。

とりあえず、明日の昼飯は絶対そうめんにする。

…その前に、今日の晩飯だよな。

何作ろうかな…。買い物行く時間がないから、冷蔵庫にあるもので何か…。

…すると。

「…?…?悠理君、お母さんは帰ったの?」

寿々花さんが、二階から降りてきた。

おぉ。戻ってきたか。

ケーキを食べた後、すぐに自分の部屋に帰って…何やら熱心に部屋にこもっていたようだが。

…何やってたんだろうな?

まぁ、何でもいっか。

「あぁ。さっき帰ったよ」

「そっかー…」

「…」

「…」

「…どうしたよ?」

何で、そんなじーっとこっち見てくんの?

何か言いたいことでもあるのか。そうなのか?

「ううん。…悠理君のお母さん、悠理君によく似てたなーって」

…マジで?

それ逆じゃね?母さんが俺に似てるんじゃなくて、俺が母さんに似てるんだろ。

「悠理君の顔って、女の子っぽいもんね」

「…それは褒めてるのか…?」

全然嬉しくない褒め言葉なんだが?

「悠理君は良いなぁ。…あんな優しそうなお母さんがいて」

「…そうか?優しそうか?」

「うん。だってお誕生日のお祝いに、ケーキを買って会いに来てくれるお母さんだよ?…凄く優しいよ」

「…」

それって普通なんじゃないか…と思わず言いそうになったが。

普通じゃないんだよな。…少なくとも、寿々花さんにとっては。

至って普通の母親でも、特別優しいお母さんのように見えるんだろう。

「悠理君が優しいのは、お母さん譲りなんだね」

…さぁ、それはどうだろうな。

別に…普通だと思うけどな。俺も…母さんも。

「それに、良いこと教えてくれたし」

「…良いこと?」

「うん。悠理君の誕生日がもうすぐだって」

あー、はい。そのことね。

「お誕生日のお祝いするからね。私がしてもらったみたいに、今度は私が、悠理君のお誕生日のお祝いをするから」

「そうか。そりゃありがとうな」

「さっきもね、部屋で誕生日プレゼント何にしようか考えてたんだー」

部屋にこもって大人しくしてんなーと思ったら、そんなことやってたのか。

…嬉しいけど、そんな真剣に考えなくて良いぞ。

世の中、もっと真剣に考えるべき大切なことが色々あるからな。
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