アンハッピー・ウエディング〜前編〜
で、お菓子のキャンペーンの話はどうでも良いんだよ。

寿々花さんが提案した、俺への誕生日プレゼントの話だ。

「あんな感じで、ケチャップを一年分、悠理君にあげる」

すげー嬉しそうに提案してくれてうれしいんだけど。

「…何でケチャップなんだ?」

俺、別にケチャラーじゃねぇぞ。

「え?…マヨネーズの方が良い?」

マヨラーでもねぇよ。

「ケチャップの方が汎用性が高いでしょ?」

「そうか?…まぁ、色んな料理に使えるけど…」

「それに、死体のフリしたいときとかに使えるって」

そういう用途でケチャップを使う予定はない。

どうするんだよ?我が家の玄関に、数え切れないくらいの箱買いケチャップの段ボールが届いたら。

家の中、ケチャップまみれ。

いくら家が広いからって、そんな一度に大量に届いたら邪魔だよ。

しかも、食べ物には賞味期限ってものがあってな。

何十本も届いても、絶対使い切れない。

「消費しきれる訳ないだろ。一年間毎日、三食オムライス作らなきゃいけなくなるじゃないか」

「え、毎日オムライス食べられるの?やったー」

しまった。この人オムライスが好きなんだった。

冗談じゃねぇよ。俺は毎日オムライスなんて御免だ。

「ともかく。ともかくケチャップも却下だ。マヨネーズも駄目」

「えっ。じゃあ…焼きそばソース?」

毎日焼きそば食べるつもりか?

それも却下。

どうしてあんたは、こう、何事につけても極端なんだ。

「駄目だ。一年分の○○みたいなのは全部駄目」

大家族ならともかく、二人暮らしで一年分の食材が届いても、絶対使い切れない。

一年分の米…ならまだ分かるけども。

いや、それだって虫が湧きそうだからやっぱり駄目。

「そんな…。じゃあ私、悠理君にプレゼントあげられないや」

絶望したような表情で、わなわなしながら呟く寿々花さん。

「どうしたら良いの…?」

「いや、その…。別に、無理にプレゼントを用意する必要はないからな?気持ちだけで充分嬉しいから」

「でも、悠理君は私の誕生日を祝ってくれたのに」

「プレゼントが欲しい訳じゃねぇよ、俺は。ケーキを食べて、誕生日おめでとうって言ってもらえて、いつもよりほんの少し特別な日であれば充分だ」

それだけで、誕生日って良いなぁって思えるもんだよ。

何も、特別なプレゼントをもらう必要はない。

何より、俺の為に一生懸命プレゼントを考えてくれていることが、既に嬉しい。

…まぁ、一生懸命考えて出てきたのは、鳩と大根とケチャップだけど。

どうしてこう、あんたは何につけても極端なのかね。

「じゃあ、じゃあせめてケーキは。悠理君の誕生日ケーキは、私が用意するね」

えっ。

「す、寿々花さんが用意…?って、どうやって?」

「大丈夫だよ。とびっきりの誕生日ケーキを用意するから。大丈夫」

これほど安心出来ない「大丈夫」が、他にあるだろうか。

でも、「何もしなくて良い」と言ったら、それはそれで落ち込みそうだし…。

落ち込んで、また玄関に蹲られても困るからな。

「…寿々花さんが作るんじゃなきゃ、何でも良いよ…」

「うん。分かったー」

こうして、寿々花さんが俺の誕生日のケーキを用意することになった訳だが。

…本当に大丈夫だよな?

一抹の不安が…まだ…。
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