アンハッピー・ウエディング〜前編〜
朝から携帯に、母さんからのメールが入ってたよ。

誕生日おめでとうってさ。

誕生日を誰かに覚えていてもらって、こうして祝福してくれる人がいるっていうのは、いくつになっても嬉しいもんだよな。

…とはいえ、基本的に俺の誕生日を祝ってくれるのは毎年、母さんだけしかいない。

というのも、俺の誕生日ってほら。夏休みじゃん?

学校が休みの時に誕生日だとさ。クラスメイトに祝ってもらえないんだよな。

まぁ、しょうがないんだけどさ。

なんか、ちょっと寂しいような、損したような気持ちになるよな。

しかし、今年は母さんだけではなく。

祝ってくれる人が、他にもいる。

部屋で着替えて、一階のリビングに降りると。

「…お…?」

「…zzz…」

寿々花さんがリビングのソファにもたれて、こっくりこっくり、船を漕いでいた。

珍しいな。この時間に寿々花さんがリビングに降りてきてるなんて…。

いつもなら、自分の部屋で寝息を立てている時間だろう?

「おはよう、寿々花さん…。って、寝てるけど…」

「…zzz…」

「…まぁいっか。この間に朝飯作ろう」

俺はいつも通りキッチンに向かって、朝食の用意を始めた。

誕生日だからといって、特にいつもより豪華な朝食…ということはない。

いつも通り、味噌汁と卵焼きとご飯、そしていつもの糠漬けというメニューである。

まぁ、朝だしな。

その代わり夕飯は、いつもよりちょっと豪華にしようかな…と、考えていると。

「…ふぇ?」

「あ、起きた…」

丁度朝食が出来上がった頃に、寿々花さんの目がぱちっ、と開いた。

「おはよう。何でこんなところで寝てたんだ?」

「…あれ?悠理君…」

寿々花さんは、しばし俺の顔をじーっと見つめていた。

…どうした?

「…いつの間に悠理君、起きてきたの?ワープした?」

「いや、してねぇけど…。普通に起きたよ。いつも通りの時間に」

「…私、何してた?」

「…?寝てたよ」

そこ。ソファに座って。

で、あんた何で今朝に限って、こんなところで寝て、

「…!そうだった」

突然寿々花さんは、慌ててソファから立ち上がり。

「悠理君、誕生日おめでとー!」

と、誕生日を祝福してくれた。

「お、おぉ…ありがとう」

「あのね、一番に悠理君のお誕生日をお祝いしてあげようと思って」

それで、リビングで待ち構えてたのか?

ソファに座って、俺が起きてくるのを待ってたのか。

…でも、眠気に抗えず、ソファに座ったまま居眠りしてしまったと…。

…実に寿々花さんらしくて、微笑ましくなってくるな。
< 461 / 505 >

この作品をシェア

pagetop