アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「あ、そうだ。えっと、えっと、クラッカー持ってきたんだった」
寿々花さんは、眠りこけていたソファの周りを手で探り。
「あ、ほらあった。クラッカーをね、ぱーんって、悠理君に」
「何処から持ってきたんだよ、そんなもの…」
「えーっと、確か紐を引っ張って…えい、えい」
「ちょ、馬鹿。逆だよ、それ。自分に向けて発砲するんじゃない」
クラッカーの先を自分の方に向けて紐を引っ張ろうとする寿々花さんを、俺は慌てて止めた。
危ないところだった。
「でも、人に向けじゃ駄目だって」
「いや、あのな。お箸じゃないんだから…。クラッカーは相手に向けないと。自分を祝ってどうするんたよ」
「紐引っ張ってるのに、何にも出ないよ。…不発弾…?」
「…もう良いよ、クラッカーは…」
気持ちだけで。気持ちだけで充分嬉しいから。
それよりも。
「あんたが早起きするとは、珍しいな。いつから待ってたんだ?」
「え?…日付が変わった頃から」
…えっ。
「悠理君がいつ起きても良いように、ずっとここで待ってたの」
「…夜中から?ずっと?」
「うん。一番におめでとうって言ってあげたくて」
成程。そういうこと。
今すぐベッドに戻って寝ろ。
そりゃ居眠りもするわ。まさか、日付が変わってからずっとここで待ってたなんて。
遠足が待ちきれない子供かよ。
「悠理君の為に頑張ろうと思ってたん…だけど」
寿々花さんは、ちらりとキッチンの方を向いて言った。
「…もしかして、私が居眠りしてる間に、朝ご飯出来ちゃった?」
「え?うん…。普通に、いつも通りの朝飯作ったけど…」
「…」
「…なんか、駄目だった?」
「…うん、駄目」
…駄目だったか。そうか。
「今日は悠理君の誕生日だから、悠理君はお殿様じゃないといけないんだよ」
…お殿様?
って、どういう意味?
「悠理君への誕生日プレゼント、色々考えて…。抱き枕も時計もケチャップも要らないって、悠理君が言うから…これにしたの」
そう言って、寿々花さんは。
名刺くらいの大きさの紙を20枚くらい、ホッチキスで留めたものを差し出した。
何だこれ?
えぇと…文字が書いてある。
「悠理君お殿様券。この券を使ったら、悠理君は一日何も仕事をせずに、ゆっくりお殿様みたいに過ごすことが出来るんだよ」
何故か、えへん、と胸を張って言う寿々花さん。
お殿様券…って。
…あれか。肩たたき券みたいなものか?
子供が、母の日とか父の日に親にプレゼントする定番の。
人生で初めてもらったよ。こんなの。
寿々花さんは、眠りこけていたソファの周りを手で探り。
「あ、ほらあった。クラッカーをね、ぱーんって、悠理君に」
「何処から持ってきたんだよ、そんなもの…」
「えーっと、確か紐を引っ張って…えい、えい」
「ちょ、馬鹿。逆だよ、それ。自分に向けて発砲するんじゃない」
クラッカーの先を自分の方に向けて紐を引っ張ろうとする寿々花さんを、俺は慌てて止めた。
危ないところだった。
「でも、人に向けじゃ駄目だって」
「いや、あのな。お箸じゃないんだから…。クラッカーは相手に向けないと。自分を祝ってどうするんたよ」
「紐引っ張ってるのに、何にも出ないよ。…不発弾…?」
「…もう良いよ、クラッカーは…」
気持ちだけで。気持ちだけで充分嬉しいから。
それよりも。
「あんたが早起きするとは、珍しいな。いつから待ってたんだ?」
「え?…日付が変わった頃から」
…えっ。
「悠理君がいつ起きても良いように、ずっとここで待ってたの」
「…夜中から?ずっと?」
「うん。一番におめでとうって言ってあげたくて」
成程。そういうこと。
今すぐベッドに戻って寝ろ。
そりゃ居眠りもするわ。まさか、日付が変わってからずっとここで待ってたなんて。
遠足が待ちきれない子供かよ。
「悠理君の為に頑張ろうと思ってたん…だけど」
寿々花さんは、ちらりとキッチンの方を向いて言った。
「…もしかして、私が居眠りしてる間に、朝ご飯出来ちゃった?」
「え?うん…。普通に、いつも通りの朝飯作ったけど…」
「…」
「…なんか、駄目だった?」
「…うん、駄目」
…駄目だったか。そうか。
「今日は悠理君の誕生日だから、悠理君はお殿様じゃないといけないんだよ」
…お殿様?
って、どういう意味?
「悠理君への誕生日プレゼント、色々考えて…。抱き枕も時計もケチャップも要らないって、悠理君が言うから…これにしたの」
そう言って、寿々花さんは。
名刺くらいの大きさの紙を20枚くらい、ホッチキスで留めたものを差し出した。
何だこれ?
えぇと…文字が書いてある。
「悠理君お殿様券。この券を使ったら、悠理君は一日何も仕事をせずに、ゆっくりお殿様みたいに過ごすことが出来るんだよ」
何故か、えへん、と胸を張って言う寿々花さん。
お殿様券…って。
…あれか。肩たたき券みたいなものか?
子供が、母の日とか父の日に親にプレゼントする定番の。
人生で初めてもらったよ。こんなの。