アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「ふー。洗濯終わったー。…疲れたー…」

…そりゃ疲れるだろうよ。

俺だって嫌だよ。こんな真夏に、庭で金だらい使って洗濯なんて。

当然脱水なんてしてない、手で水を絞っただけの状態で干してあるから。

洗濯物の端から、ポタポタと雫が垂れていた。

…あーあ…。

真夏で良かったな。カンカン照りだから、脱水してなくても夕方までには乾きそうだ。

太陽の力は偉大である。

「よし、こうしちゃいられないや。次はお掃除だ」

頼むから、もう大人しくしていて欲しかったが。

寿々花さんは、今度は掃除を始めようとしていた。

「ホウキとー、それからちり取りを使おう」

またしても寿々花さんは、物置きから非常に古典的な掃除道具を取り出した。

言っとくけど、うちの家、ちゃんと掃除機あるらな。

変わらない吸引力のアレ。

俺が掃除機を使って掃除してるところ、寿々花さんも見たことあるはずだよな?

それなのに、何故ホウキとちり取りを使おうという発想になるのか。

「掃除なんて、小学校の時以来だなー。何だか懐かしい」

駄目だ。ホウキにノスタルジーを感じていらっしゃる。

男子部の掃除時間はやたらと長いのに、女子部には掃除時間そのものがないらしいからな。

お陰で、俺達男子部の生徒が、毎日新校舎の掃除までやらされているのだ。

やっぱり、いくらお嬢様でも、学校で掃除時間は必要だと思うんだよ。

たまにこうして、家で掃除することくらいあるだろ?

そのときに、掃除機の使い方さえ分からないんじゃ…。どうしようもないよなぁ。

「よーし。ゴミを掃こう…と思ったけど、悠理君が毎日綺麗にしてくれてるから、家の中全然ゴミがないや」

…そりゃどうも。

夏休みでずっと家にいるから。掃除が捗るんだよなぁ。毎日。

今日ほど、常日頃からこまめに掃除をしておいて良かったと思った日はない。

「どうしようかな…お掃除…」

うーん、と悩む寿々花さん。

もう良いって。あんた寝不足だろ?夜明け前から俺が起きてくるのずっと待ってて、ろくに寝てないだろ?

もう掃除しなくて良いからさ。寝ろって。このまま。

しかし、今日の寿々花さんは(無駄に)やる気に満ちていた。

「よし、それじゃあ廊下の雑巾がけしよう」

…大人しくしておいて欲しかったのに。

無月院家のお嬢様が、廊下の雑巾がけって…。

あんた、シンデレラじゃないんだから。

寿々花さんはバケツに水をいっぱいに汲んできて、それを持って階段を上ろうとした。

「バケツに水を汲んできてー、二階の廊下から…。…あ」

「!?ちょ、寿々花さん!?」

階段の下から、寿々花さんの様子を伺っていたら。

寿々花さんが、コケッ、と階段の段差に蹴躓いた。
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