アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「せめて何かプレゼント、って思って…。さっき、公園に寄って作ってきたの」

「公園…って」

野花を摘んで来て花束にしたのか、と思ったが。

それは花ではなく、草だった。雑草。

まさか、雑草の花束…かと思いきや。

「これ…クローバー?」

クローバーの花束だった。

小さなクローバーの花束。なかなか可愛らしい。

下手に趣味じゃないものもらうより、無難に花束の方が嬉しいかもしれない、という寿々花さんなりの配慮だろうか。

確かに嬉しいけど、しかし何でクローバーなのか…。

「うん。四葉のクローバーの花束」

「…え、四葉?」

よくよく、クローバーを見てみると。

なんと、それは四葉のクローバーだった。

すげ。四葉のクローバーなんて見たの、小学校の時以来だぞ。

小さい時、河原とか公園の芝生にしゃがんで、探さなかったか?四葉のクローバー。

なかなか見つからないよな。

小学校低学年の時、人生で初めて、偶然ちっちゃな四葉のクローバーを見つけてさ。

凄い嬉しかった記憶がある。

あの一回だけだったな。結局、俺が人生で四葉のクローバーを見つけられたのは。

まぁ、すぐに大きくなって、四葉のクローバー探しなんてやらなくなったんだけど…。

四葉のクローバーを見つけ出すなんて、寿々花さんやるなぁ…と思ったが。

やるなぁ、どころじゃなかった。

「それ」に気づいて、俺はぎょっとして目を疑った。

「え?これ…こっちも四葉じゃね?…こっちも…これも」

寿々花さんが摘んで来たクローバーの花束、全部。

どれもこれも、四葉なんだけど。

え?これ、本当にクローバーだよな?

そっくりな別の草、ってことないよな?

「うん。五葉と六葉もあるよ。ほら」

と、寿々花さんは、無数のクローバーの中の一本を指差した。

五葉?六葉もあるってマジ?

1、2、3、4、5…6。本当だ。葉っぱ6枚ある。

これ、寿々花さんがハサミで葉っぱを切った訳じゃないよな?

四葉のクローバーでさえ、本物は人生で一回しか見たことないのに。

五葉と六葉なんて、当然初めて見た。

都市伝説か何かだと思ってたのに。

「七葉は見つからなかったの。…ごめんね」

「い、いや…。ふ…普通に凄くね?」

「…?そう?」

そう?じゃねぇよ。

四葉のクローバー一本見つけるだけでも、俺だったら、丸一日雑草の中を探し回っても見つけられなさそうなのに。

寿々花さん、さっき実家にケーキを作ってもらう為に外出してたけど。

あれ、精々二時間程度だったよな?

その二時間の間で、これ、全部見つけたのか?

ま、まさか。

「えっと…。どっかに売ってたのか?」

最近の花屋は、四葉のクローバーの花束販売しているのだろうか。

俺は見たことないけど。

「?ううん。売ってないよ」

だよな?

だって、このクローバー、根っこにまだ土がついたままなんだもん。

何処かに自生したものを、摘んで来たんだよな。

じ、じゃあ…。

「誰かに手伝ってもらったのか?これも、無月院本家の使用人を総動員して…」

寿々花さんの命令で、四葉のクローバーを探す為に、大の大人が目を皿にしてクローバー畑にしゃがみ込んでいる姿を想像して。

申し訳ないけど、軽く噴き出しそうになった。
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