アンハッピー・ウエディング〜前編〜
しかし。

「ううん。ケーキは頼んだけど、クローバーは誰にも頼んでないよ」

とのこと。

…マジで?じゃあ…。

「…寿々花さんが探したのか?これ全部。さっきの出掛けてた時間に…?」

「?うん、そうだよ」

嘘だろ。

いや、嘘だろ?嘘だと言ってくれよ。

「公園の花壇に、いっぱいクローバーが生えてたから…四葉のクローバーで花束作ってあげようと思ったの」

「さ…最近のクローバーって、四葉がデフォなのか…?」

「…?ううん。三葉もいっぱいあったけど」

だよな?

今も昔も、四葉のクローバーってレアアイテムだよな?

ましてや五葉や六葉なんて、人生で一回でも見つけられたら、一生の自慢に出来るぞ。

「よ、よく見つけられたな…?」

「?うん。私、昔から四葉のクローバーを見つけるの得意なんだー」

衝撃の新事実。

寿々花さんに、こんな無駄な…いや。

意外な特技があったなんて。

「これまでで見つけた最高は…12枚の葉っぱのクローバーだったかな」

十二葉のクローバーだってよ。

宝くじ当てるより難しくね?

「あ、あんた、もしかして…天才か?」

「ほぇ?」

ほぇ、じゃなくてさ…。

「…」

ここに来て明かされた寿々花さんの謎の特技と、大量の四葉のクローバーの花束。

それなのに寿々花さんは、「それの何が凄いの?」みたいな顔で、ぽやんとしてるし。

…もっと誇って良いと思うぞ。その特技。

地味だけどさ。めっちゃ凄いことだから。

「四葉のクローバーって、幸せの象徴だから。一年間、悠理君にいっぱい幸せな出来事が起きますようにって」

「そ…そうか」

そう言われると…何と言うか、照れ臭いんだけど…。

…とりあえず。

「今のところ、これが一番嬉しかったよ」

「え、悠理君、クローバー好きだったの?」

「…そういう訳じゃないけど…」

寿々花さんの、「お祝いしたい」っていう思いがダイレクトに…伝わってくるなぁって。

素朴な花束だから良いよな。これが花屋で買ってきた大輪のユリの花、とかだったら、こんなに嬉しいとは思わなかったと思うんだよ。

別にユリの花が嫌いな訳じゃないけど…。

上手く言えないが、こう…小さい子が母の日に、拙い似顔絵と、庭で摘んだたんぽぽの花をお母さんにプレゼントする、みたいな。

そういう素朴な温かさって言うの?…ごめん、上手く言えないや。

とにかく、鳩時計や一年分ケチャップよりは、百倍嬉しかったと言っておこう。

…このまま枯らすの勿体ないからさ、これ。押し花にでもしようかな。

「ありがとうな、寿々花さん。今日一日、ずっと祝ってもらって…。その…嬉しかったよ」

「私が悠理君にしてもらったみたいに、私も少しは悠理君にお返し出来たかな?」

「そりゃもう。充分返してもらったよ」

「そっか。良かったー」

まぁ、たまには。

こんな破天荒な、ハチャメチャな誕生日も悪くないかもな。

…毎年これだったら、カロリー過多で倒れそうだけど。
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