アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…誰だよ。このタイミング。

今昼飯食ってるじゃん。

昼食時に人様の家を訪ねるもんじゃない。

…まぁ良いか。仕方ない。

むしろ、今日で良かった。今日は家の中、異臭を放ったりはしてないからな。

「ちょっと出てくるよ」

「いってらっしゃーい」

俺は割り箸を置いて、席を立った。

どうでも良いけど、割り箸の先が黒く染まっていた。

もしかして今、俺の口や歯まで黒くなったりしてないよな…?

来客にぎょっとされたらどうしよう。何食ってんだこいつ、って思われるだろうか。

まさか、外国産の青薔薇味のインスタントラーメンのせいで…とも言えず。

イカスミパスタ食べてたってことで。適当に誤魔化そう。

「はい、どちら様…」

玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは。

思わず、げっ、という声が出そうになった。

「ん…?何だ、また君か…」

その「来客」は、俺を見てそう吐き捨てた。

そりゃこっちの台詞だ。またあんたか。

そういや、また訪ねてくるって言ってたもんな。

もう二度と来なくて良いものを。

この炎天下に、わざわざ訪ねてきたのは…寿々花さんの元婚約者、円城寺雷人であった。

よく見たら、うちの門の前に高級車が停まっている。

お付きの運転手らしき人物が、運転席に座ってるよ。

これに乗ってきたのか?…正しくお坊っちゃまだな。

俺なんて、遠足の日ですら、バスも使わせてもらえず徒歩だったっていうのに。

この格差社会よ。

いや、それよりも。

「今度は何しに来たんだよ…?」

前回来たとき、寿々花さんに酷いこと言って帰ったのを、俺は忘れてないからな。

また寿々花さんに余計なこと言うつもりなら、速攻回れ右して帰ってくれ。

しかし。

「何しに、とは随分な挨拶だな。間に合わせで選ばれた婚約者の癖に…」

何だと?

わざわざ喧嘩売りにこんなところまで来たのか。暑い中ご苦労様なことだ。

付き合ってる暇はないから、さっさと帰れ。

「そんなことより、僕は急いでるんだ。邪魔するよ」

「あ、おい。邪魔すんなら入ってくんな」

円城寺は、招いてもいないのに勝手に玄関に上がってきた。

不法侵入だろ、これ。警察呼んでやろうか。

家主の許可もなく、勝手に上がってくるんじゃねぇ。

あろうことか円城寺は、何の躊躇いもなく玄関に上がり、そのままリビングに直行。

寿々花さんを探して、リビングに繋がるダイニングルームに向かった。

「寿々花お嬢様。ご機嫌麗しく」

「…ふぇ?」

円城寺が(勝手に)ダイニングルームに入ったとき。

我が家の寿々花お嬢さんは、口の中を真っ黒にしてラーメンを啜っているところだった。

…やっぱり黒くなってんな。口…。多分俺も、今歯が真っ黒になってるんだろうなー…。

…って、そんなことはどうでも良いんだよ。
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