アンハッピー・ウエディング〜前編〜
もしかして、また円城寺か?戻ってきたのか、あいつ。

オペラとやらを見てるんじゃなかったのか?

とにかく…出るか。

居留守を使ってやりたかったが、そういう訳にもいかず。

「…どちら様?」

「よっ、星見の兄さん。来ちゃった!」

玄関の扉を開けた先にいたのは、寿々花さんでも円城寺でもなく。

惚けた顔をした雛堂と、それから乙無だった。

「…ちっ。何だ、あんたらかよ…」

「ちょ、辛辣!なんな辛辣過ぎね?出会い頭に舌打ちって」

ごめんな。

俺、今超機嫌悪いからさ。

「何だか機嫌悪そうですね、悠理さん。夏バテですか?それとも、とうとうあなたも人間界に絶望しましたか」

「あぁ…そうかもな」

「マジかよ。星見の兄さん、マジで不機嫌だな。…女の子の日か?」

…イラッ。

今、そういう冗談を軽く流せる心の余裕がない。

「雛堂…。それ以上言うと、バケツの水を頭からぶち撒けるぞ」

「じょ、冗談だって。顔がマジなんだけど…!?」

「で、あんたら何しに来たんだよ」

今日、会うなんて約束してなかっただろうが。

「ほら、夏休みになんか夏っぽいことしようぜ、って前言ってたじゃん?」

…夏っぽいこと?

そういや言ってたっけな…。夏休みが始まる直前に。

でも、夏っぽいことなら既に…。

「花火大会やったじゃん」

「あれは別!家の中だったしさー。改めて夏っぽいことの計画を立てようと思ってさ。打ち合わせに来たんだわ」

「…ふーん…」

それ、別にわざわざ会わなくても。

携帯で連絡取れば良くね?

「ついでに、星見の兄さん家で涼もうと思ってさー」

「うちは避暑地か…?自分ちで涼めよ」

「しょうがないじゃん。うち、リビングにしかエアコンないのにさぁ。チビ共が友達とか連れてきて、リビング占領してんだもん」

あ、そうなんだ…。それは大変だな。

この猛暑の中、エアコンなしはさすがにキツいものがある。

「ってな訳で入れて!外めっちゃ暑い!」

「あぁ、うん…。良いよ」

とてもじゃないけど、そんな気分じゃなかったけど…。

折角来たのに、追い返す訳にもいかず。

まぁ…暇潰しと言うか…。気を逸らすことは出来るかな。

「お邪魔しまーす。ひゃー、涼しーっ!生き返る〜!」

「だらしない人ですね、全く」

「だって、外暑いじゃん。しかし乙無の兄さん、こんな真夏なのによく長袖着ていられんな。化け物?」

「失礼な。僕は邪神イングレア様の眷属です。何度もそう言ってるじゃないですか」

その猛暑の中でも、乙無は相変わらず長袖のシャツを着ていた。

暑くないのか。また痩せ我慢してるのか。

見てるだけで暑苦しいから、普通に半袖を着てくれ。

「半袖着ろよ。持ってないのか?」

「この身体は僕のものではありません。イングレア様に、尊き血を授けられたその時から…偉大なる邪神、イングレア様のものなのです」

「…だから?」

「妄りに素肌を晒す訳にはいかないんです。邪なる衝動を抑える為に」

…あ、そう。

何でも良いけど、熱中症で倒れても知らないからな。
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