アンハッピー・ウエディング〜前編〜
リビングに二人を案内し。

「えぇっと、飲み物…。何が良い?」

「僕は何でも」

「冷たいものが良いな。炭酸ならなお良しなんだが」

炭酸か。

「悪いけど、炭酸飲料はない。寿々花さんが飲まないから」

口の中がしゅわしゅわする〜、とか言ってさ。

カルピスとかオレンジジュースならあるんだが。

「カルピスで良いか?」

「おうよ!宜しく」

じゃ、三人共カルピスで。

暑い中歩いてきたらしい雛堂と乙無のグラスには、たっぷりと氷を入れておいた。

あ、カルピスが薄まるかも…?…まぁ良いか。

ちょっと濃い目に入れておこう。

…すると。

「テーブルの上に何か…。…宿題ですか?これ」

「おっ、本当だ…。星見の兄さん、今宿題やってたのか。真面目かよ」

雛堂と乙無が、リビングのテーブルの上に投げっぱなしにしていた、やりかけの宿題を見つけた。

あ、しまった…。あれ片付けてなかった。

見られて困るようなものじゃないから、別に見られても良いんだけど。

「真面目って…。あなたは真面目にやってないんですか?」

「夏休みの宿題なんて、8月31日にまとめて全部やるもんだろ?」

あー、いるいる。そういう奴。

タイムリミットが迫ってきても、「まだあと〇日あるから…」と自分に言い訳して現実逃避し。

ラスト一日、31日になってからようやく逃げられない現実と向き合い、半泣きで一日中宿題を片付ける羽目になるのだ。

徹底的に、嫌なことを全部後回しにするタイプな。

俺は逆だな。むしろ、嫌なことは出来るだけ早めに終わらせておいて。

心置きなく、残りの夏休みを満喫したいタイプ。

それでも、読書感想文とか小論文とか、手を出しにくい宿題が残ってしまってるんだよな…。

「はい、カルピス出来たぞ」

「どもっす!」

リビングにカルピスを持っていき、テーブルの上の宿題を横に避けた。

結局今日も、この宿題は片づけられなさそうだな。

「星見の兄さん、それ読書感想文?もう書いたのか?」

「え?いや、まだ…」

「だよなぁ。読書感想文の為に本読むのもダルいわ」

分かる。

しかも、自由に好きな本を読んで良い訳じゃなく。

課題の本が何冊かリストアップされていて、その中から一冊選んで読み、その本について感想文を書かなきゃいけない。

その課題リストがまた、いかにもつまらなさそうな本ばっかりなのだ。

全然読む気にならないよな。

「それから…小論文と…こっちは?」

雛堂が、横に寄せた宿題を指で差しながら聞いてきた。

「英文読解だよ」

「あー。あの超なっがい英文のアレかぁ…。長過ぎて、一行目でギブだわ」

分かる。

最初の一行で分からない単語が三つくらい出てきてさ。

訳す気失せるんだわ。

「あ、でもさぁ。星見の兄さんちには、強力な助っ人がいるじゃん」

「…は?」

「無月院の姉さんだよ。学年一の秀才だろ?英語だってペラペラなんだろ?教えてもらえば良いじゃん」

…唐突に、寿々花さんの名前を出され。

再び、俺のテンションが急降下。
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