アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「…」

「そういや、今日は無月院の姉さん居ねぇの?どっか行った?」

「…」

「さては、優雅なお友達と優雅にコンサートでも行ったか?いかにもお嬢様って感じで…」

「…」

「…あれ?なんか自分、星見の兄さんの地雷踏んだ…?」

…あぁ。踏んだ。

今ここに円城寺がいたら、頭からカルピスぶち撒けてやっただろうよ。

いや待て。カルピスが勿体ない。

「大也さん…。そういう余計なことは言わない方が良いですよ。平和に人生を生きていきたいなら」

「えっ、そんな不味いの?…マジで出掛けてんの?」

「…そうだよ」

あの、イギリス帰りのお坊っちゃまとな。

ご立派なオペラとやらを見て、高級レストランでフレンチのフルコースを食べてくるんだと。

それはそれは。雛堂の言う通り、いかにもお嬢様の休日って感じ。

「あー、成程。それで星見の兄さんの機嫌が悪いのね。置いてかれたんだ?」

「別に…そういう訳じゃ」

「無月院の姉さんが別の人と出掛けちゃ、なんか不味いことでもあるの?」

…え?

「むしろ、一人の方が居心地良くね?自分だったら、チビ共が家にいなかったら落ち着くしさ」

…それは考えてみたことがなかった。

寿々花さんが家にいない方が、居心地が良い…。

…それはないな。不思議と。

「むしろ…家にいないと落ち着かないよ…」

「そうなんですか?」

「何で、と言われても上手く説明出来ないけど…」

円城寺が悪いんだよ。寿々花さんを連れ出したのが円城寺じゃなかったら、俺だってもっと冷静に…。

「今回は、円城寺に連れられて行ったから…」

「誰?えんじょーじって。なんか強そうな名前だな」

「寿々花さんの…元婚約者なんだってさ」

俺がそう説明すると、雛堂と乙無は一瞬固まった。

「…何だか倒錯してますね。人間関係が…」

「昼ドラみてぇだな」

笑い事じゃないんだよ。

俺は真剣に言ってんの。真剣に。分かるか?

すると。

乙無が、唐突に驚くべきことを口にした。

「悠理さんは、その寿々花さんという方のことが本当に好きなんですね」

「…」

…は?

思わず、カルピスのグラスを落っことしてしまうところだった。危なっ。

「…何言ってんの?乙無…」

やっぱり、暑さで頭おかしくなったんじゃね?

真夏だってのに、頑なに長袖ばっか着てるからだよ。

…しかし。

「確かに。許嫁って言うから無理矢理なのかと思ってたけど、意外と満更でもないのなー」

雛堂まで、そんなトチ狂ったことを。

二人して何言ってんだ。…熱中症か?

それとも、俺をからかって遊んでるのだろうか。

だとしたら、趣味が悪いぞ。
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