アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「何言ってんの…?あんたら…」

「え?だってそうだろ?無月院の姉さんが元婚約者とデートに行ったのがムカつくんだろ?」

でっ…。

…デート、なのか?あれは。

そう思うと、何だか余計に腹が立ってきた。

「それって、その円城寺の兄さんに嫉妬してるってことじゃん?」

「しっ…。…と、なんてしてる訳ないだろ?」

「でも、姉さんを取られたのがムカつくんじゃん?」

「…」

「つまり、星見の兄さんは無月院の姉さんのことが好きってことじゃん」

…な…。

…何故そうなる?

テンパっていた。突然二人に妙なことを言われて、俺は超テンパっていた。

「べっ…。別にそんなこと…」

「本当に彼女に興味がないなら、寿々花さんが誰と出掛けようと、どうでも良いと思うはずでは?」

「…」

…それは。

でも、言われてみれば確かに…。

ここに来たばかりの頃は、寿々花さんが誰と出掛けようと、何処に行こうと無関心だったのに。

円城寺…元婚約者の存在だって…。

俺がこの家に連れてこられたのは、大人達が勝手に決めたこと。

好きで一緒に暮らしてるんじゃない。寿々花さんと。

だから、もし円城寺が出しゃばってきて、もう一度円城寺が寿々花さんの婚約者に戻ろうとしているのなら。

それは俺にとって、願ったり叶ったりなのでは?

…それなのに、今の俺は何だ。

円城寺が寿々花さんを連れて、ドヤ顔で街を歩いているところを想像しただけで。

円城寺の横っ面、ぶん殴りたくなる。

…この心境の変化は何なんだ。

「本人は自覚なし…ですか」

「ま、しゃーねーだろ。星見の兄さん、童貞かよって思うくらいウブだもんなー」

雛堂にめちゃくちゃ失礼なこと言われてるはずなのに、俺の耳には届いていなかった。

俺が寿々花さんを…す…。…なんてとんでもない。

「別に…。え、円城寺がクソ生意気だから気に食わないだけだよ」

「そうですか。まぁ、そういうことにしておきましょう」

何だよ、その言い方は。

「ただ、自分の思いはきちんと自覚し、素直に伝えるべきですよ。…まだ、それが出来るうちにね」

と、乙無。

「本当に大事なものっていうのは、失ってから初めて気づくものですからね。後になって後悔しないように」

月並みなこと言われてるだけなのに。

…何だか、妙に言葉に言葉に重みがあるって言うか…。

「まぁ、それが出来ないのが人間って生き物なんですけどね」

「やべぇ。乙無の兄さんが珍しく、格好良いこと言ってんぞ。まるで邪神の眷属みたいだ」

「まるで、じゃなくてそうなんですよ」

自分の思いを素直に…か。

…口で言うほど、簡単に出来るかよ。

だけど…もし、今抱いている気持ちが、俺の素直な気持ちなのだとしたら…。

俺は、寿々花さんに…。
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