アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「で、そんな星見の兄さんの不器用な恋路はどうでも良いんだけどさー」

「…」

「…」

…何だよ。

「夏っぽいこと、何するか決めようぜ」

「大也さん…。あなたはまず、夏っぽいことの前に、空気を読むことを先に学ぶべきですね」

全くだよ。

もっと言ってやってくれ、乙無。

「だって、このままじゃ空気がしんみりしちゃうだろ!?気まずい雰囲気になる前に、話題を変えたんだよ」

気まずい雰囲気…。なりかけてたな。今。

雛堂なりに気を遣ったということなのかもしれない。一応。

…良いよ、分かったよ。

「なんかして遊ぼーぜ。海にする?プール?ウォータースライダーとかさー」

泳ぎたいのか?雛堂は。

まぁ、夏と言えば…って感じだもんな。

夏休みが始まる前、アホなこと言ってたしな。

水着のお姉さんをナンパする、とか何とか。

アホだな。やっぱり。

「…星見の兄さんに、何故か物凄く軽蔑した目で見られてる気がする」

「気の所為だ」

「僕は、水着になる場所はお断りしますよ。人前に肌を晒す訳にはいかないって、さっき言いましたから」

乙無は、雛堂の案を却下した。

そんなに嫌か?…水着…。

そういや、俺も水着持ってないんだよな。

学校のプールの授業で使う、スクール水着なら持ってるんだけどな。

海水浴にスクール水着で行くの、ダサくね?

「じゃあ、乙無の兄さんは何したいんだよ?」

「良いですか、僕は忙しいんです。今日だって、一方的に大也さんが『星見の兄さん、からかいに行こうぜ!』って言うから、無理して来ただけで」

雛堂の奴、そんなこと言って乙無を誘ったのか?

追い返すぞこの野郎。

しかし、雛堂は何を言われてもけろっとして。

「乙無の兄さんは食いしん坊だからさー。食べ物の方が良いか?スイカ割りとか?そういや、お盆の期間に駅前でたこ焼きフェスがあるらしいし」

たこ焼きフェスだってさ。

そんなイベントが?

「星見の兄さんは?夏っぽいこと、何したい?」

「え?いや…」

夏っぽいこと…ねぇ。

って言われても…花火はやったし、誕生日も祝ってもらったし…。

これと言ってやりたいことは、別に…。

「何だよ、ったく…。ノリの悪い奴ら」

悪かったな。…ノリ悪くて。

「ま、いーや。それなら今度会うときまでに、自分が決めておくわ」

「雛堂が…?あんたに任せて大丈夫なのか?」

「おうよ。ウブな君達の為に、ばっちり夏っぽいこと企画しておくから」

…あ、そう。

じゃあ、まぁこの件については雛堂に任せるかな…。

「用事終わりました?僕、もう帰って良いですか?」

「何だよ、釣れないなー乙無の兄さん。なんか予定でもあんの?」

「ありますよ。罪の器を満たし、忌々しい聖神ルデスの巫女を滅ぼすという、崇高な使命が…」

「よし。暇だし、人生ゲームでもやろうぜ。チビの玩具なんだけど、掻っ払ってきてやったんだわ」

そう言って、おもむろに人生ゲームを始めようとする雛堂。

とてもじゃないけど、人生楽しんでる心の余裕はないのだが…。

…まぁ、気が紛れて良いかもな。
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