アンハッピー・ウエディング〜前編〜
寿々花さんは今頃、高級レストランでフレンチのフルコース。

ってことは、今夜の夕食は俺一人だけか…。

…何作るかな。

いつもは二人分作ってるからな…。一人分なら楽で良いじゃん、って思うかもしれないけど。

実際少し前までは、一人の方が楽だと思ってたけど。

…今は、何だか物足りないって言うか…。

…全然やる気出ねぇや。

面倒臭いからなー…。…卵かけご飯でいっか。

冷やご飯を温めて、生卵を一個、冷蔵庫から取り出そうとした…その時。

またしても、本日三度目となるインターホンの音が鳴り響いた。

…誰だよ、今度は。

今日だけでうち、来客多過ぎね?

また円城寺か。それとも雛堂か?

円城寺だったら追い返そう。

俺は生卵を冷蔵庫に戻して、玄関に向かった。

「はい、どちらさ…ま?」

「悠理君。ただいま」

「…」

…寿々花さんだった。

これは予想してなかった。

「あ、あんた…」

「帰ってきちゃった」

今日一日、寿々花さんがいない間、ずーっと悶々として。

必死に気を紛らわせて、寿々花さんのこと考えないようにして…。

で、こうして寿々花さんが帰ってきて、顔を見て…何だか久し振りに会ったような気がして。

おかしいよな。…たった数時間なのに。

「…自分の家なんだから、インターホン鳴らさずに普通に入ってこいよ」

もっと気の利いたことが言えたら良かったんだが。

最初に出てきたのは、そんなつまらない言葉だった。

アホかよ、俺。もっと他に言うことあるだろ。

「そうなんだけど、悠理君寝てるかなぁって」

「起きてたよ…別に」

「そっかー」

…って、それよりも。

「あんた、何で帰ってきてるんだよ?」

「ほぇ?」

今頃、円城寺と二人でディナーじゃなかったのか。

格好もドレスじゃなくて、普通の服装だし。

つーか、円城寺は何処行った?あいつも帰ったのか?

「レストランに行く…とか言ってなかったか?」

「うん。その予定だったんだけど…断った」

「…」

「断って、帰ってきちゃった」

…マジで?

どうなってんの?

「オペラ…見に行ったんじゃなかったのか?」

「オペラは見たよ。舞台の上で色んな人が歌っててね、眠くなっちゃった、寝てた」

高尚な芸術(笑)も、うちの寿々花さんにかかったら子守唄代わりか。

「終わった後、円城寺君が、これが世界最高峰の芸術〜とか、一流に触れることで感性が磨かれて〜とか、色々言ってたんだけど…」

「…けど?」

「私寝てたから、よく分かんなかった」

…成程。

円城寺、ざまぁ。
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