アンハッピー・ウエディング〜前編〜
どうやら、高尚な芸術(笑)とやらは、寿々花さんにも通用しなかったようだな。

人間には向き不向きってものがあるんだよ。分かったか。

「寝てたって言ったら、何だか凄く怒られちゃって…」

憤然としてる円城寺の姿が、目に浮かぶようだよ。

「どうせまた言ってたんだろ。『無月院家の淑女としての自覚が〜』とか何とか」

「凄い、悠理君。よく分かったね」

そんなことだろうと思ったよ。

口を開けばそれしか言わんじゃん。あいつ。

クソ喰らえだ、そんなもん。

「そうしたら今度は、悠理君のことを悪く言い始めて…」

あ?俺?

「あー…。俺なんかと一緒にいるから毒されてるんだとか、俺は寿々花さんに相応しくないんだとか、そういうことね」

「凄いね、悠理君。もしかして見てた?」

見てなくても分かるよ。いかにもあいつが言いそうなことじゃん。

「むかーってしたから、もう良いやって思って帰ってきちゃった」

よし、良くやった。素晴らしい。

とても良くやったと褒めたい。

「…駄目だったかな?」

「いや、駄目じゃない。むしろ良くやった。偉いぞ」

「やったー」

悔しそうにしている円城寺の姿を想像して、思わず拍手喝采したくなった。

クラッカー鳴らそうぜ。お祝いに。

「突然帰ってきちゃって、ごめんね」

「良いよ。あんたの家なんだからいつでも帰ってきて良いに決まってるだろ?」

わざわざインターホン鳴らして、遠慮しなくて良いんだよ。

堂々と帰ってこい。自分の家だろ。

「今丁度、夕飯食べようと思ってたところだ」

「あ、そっか。私、ご飯食べずに帰ってきちゃった」

「いや、大丈夫…。今から作る。何でも作ってやるぞ」

今、俺超機嫌良いからな。

不思議なもんだ。さっきまで、面倒臭いけらって、卵かけご飯で済ませようとしてたのに。

今なら、それこそフレンチのフルコースでも作って良い。

それくらい、やる気に満ち溢れている。

まぁ、フランス料理の作り方なんて知らないけどな。

この間の、寿々花さんの調理実習のときのメニューくらいしか分からん。

馬鹿みたいだ。馬鹿みたいに…寿々花さんの一挙一動に振り回されたりしてさ。

それなのに、それが嫌だとは思わないのだ。

どういう心境の変化なんだろうな。これは。

「本当?何でも?」

「あぁ。何でも」

今から材料買いに行っても良いぞ。

「じゃあねー、んー…。我儘言っても良い?」

「どうぞ」

「悠理君のオムライスが食べたいな」

「…いつも通りじゃん」

それは我儘とは言わないんだよ。いつも通りだって言うんだ。

あんたは、それ以外にリクエストはないのかよ?

「他には?他にリクエストはないのか?」

「え?そうだなー…じゃあ、オムライスに旗を立ててくれたらもっと嬉しい」

それもいつも通りじゃん。

寿々花さんがいつもそう言うからさ、戸棚にいつも、ストックしてるよ。旗。

百円均一のキッチン用品売り場に売ってるの、買い溜めしてる。

高級料理を作ってくれ、と言われたら困るけど。

だからって、毎回オムライス(国旗付き)ってのも、どうなんだ?
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