アンハッピー・ウエディング〜前編〜
その後、俺は店員を呼び。

俺は日替わり定食を頼み、お嬢さんにはオムライスと、栄養バランスを考えてミニサラダも注文した。

注文の後、セルフサービスのお冷やを自分で持ってきた。

え?ドリンクバー頼まなかったのかって?

頼まなかった。

忘れてたんだよ。うっかり。

自分が普段、食事のときはドリンクバー頼まないもんだから…癖で。

俺は別にお冷やで良いんだけど、お嬢さんはドリンクバー、あった方が良かったかな。

今からでも、お嬢さんだけでもドリンクバー頼もうか?

と、思ったが。

「人がいっぱい、人がいっぱいだー。あ、あそこの人ハンバーグ食べてる。あっちの人はピザだ」

お嬢さんは、俺がお冷やを取りに行っている僅かな間でさえ、じっとしていられないらしく。

人生初のファミレスに興奮して、きょろきょろと周囲を見渡しては、ぶつぶつ喋っていた。

怪しい人にしか見えないな。

やめろって。人様をじろじろ見るんじゃない。失礼だろ。

やっぱり、ドリンクバー頼まなくて良かった。

自分でドリンクバー取ってこいって言っても、この調子じゃあ。

まず、ドリンクバーの仕組みをイチから説明しないといけないだろう。

間違いなく知らないだろうからな。ドリンクバー。

せめて、自分の席で大人しくさせておこう。

「こら、大人しく待っとけって」

「あ、悠理君。今寝、お隣のおじさんのご飯見てたの」

見るな。おじさんに失礼だろ。

本当済みません。躾がなってなくて。

これでも良いところのお嬢様なんだよ。

「凄いね、賑やかで楽しくて。メニューもいっぱいあって。悠理君、素敵なお店を知ってるんだね」

「いや、あの…うん」

まさか、ファミレスを大絶賛とは。

「さっきのお洋服のお店も、たくさん種類があったもんね。色んな色もあって。楽しかったなぁ」

「…」

…貧乏臭い、と馬鹿にする代わりに。

このお嬢さん、何を見ても興味津々で楽しんでいる。
 
何だろう。調子狂うよなぁ…。

出会う前に予想していたような、絵に描いたようなお嬢様とはまるで違う。

世間知らずなのは確かだが、それ以外にお嬢様っぽいところが全然見当たらないんだよな…。

もっと高飛車で、金持ちなのを鼻にかけた女だとばかり思ってたのに…。

だって、誰も予想出来ないだろ?

「はむはむ。もぐもぐ。オムライス美味しいね」

まさか無月院家のお嬢様が、ファミレスのオムライスを口いっぱいに頬張ってるなんて。

しかも、口の端にケチャップをくっつけて。

拭きなさい。みっともない。

「でも、悠理君のオムライスの方が美味しいなぁ」

口いっぱい詰め込んでおきながら、あろうことか、ちょっと残念そうに呟いていた。

やめろって。店の中で言っちゃいけない言葉だぞ。「よその方が美味しかった」なんて。

ましてや、ファミレスのオムライスより、俺の手作りの方が美味しいだと?

そう言ってくれるのは嬉しいけど、それは多分、ただの思い出補正だよ。
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