アンハッピー・ウエディング〜前編〜
更に、お嬢さんの弱点が発覚したのは、ファミレスを出た後だった。

「ねぇねぇ、悠理君。もうおうちに帰るの?」

と、お嬢さんが聞いてきた。

「え?うん、そのつもりだけど…」

服も買ったし、昼飯も食べたし。

あとは家に帰って、今度こそ荷物の片付けを終わらせたいんだよ。

何だかんだずるずる先延ばしにして、未だに部屋の中に段ボール箱が置いてある。

…でも、お嬢さんが何か用事があるって言うなら、付き合うけど。

「何処か寄りたいところでもあるのか?」

「あのね、ケーキ買って帰りたいんだー」

お嬢様は、デザートをご所望。

意外と可愛いところあるんだな。

「ケーキね…。口直しか?」

「昨日夢の中で見たチョコレートケーキが、凄く美味しそうだったから。目が覚めたら自分でも食べたくなったの」

「…ふーん…」

チョコレートケーキの夢を見るなんて、羨ましい奴だな。

俺なんて昨日、冷蔵庫を開けたら大量のカップ麺が雪崩を起こして、右往左往してる夢を見たぞ。

夢で良かった、とどれほど思ったか。

新しい家に来てから俺、毎日悪夢続きじゃね?

…まぁ良いや。

「じゃあ、ケーキ屋に寄ってから帰るか…」

「うん、そうするー」

…とは言っても、この辺、ケーキ屋なんてあるのだろうか?

例によって地元じゃないので、詳しくないんだよな…。

こんなときこそ。

「スマホで調べるか…」

「凄いね、悠理君。それでケーキ屋さんの場所分かるの?」

「あんたもスマホくらい持ってるだろ?」

調べようと思ったら、自分で調べられるだろうに。

しかし。

「スマホ…?その、悠理君がぽちぽちしてる端末のこと?」

「そうだけど…」

「私、それ持ってない」

マジかよ。

今時、スマホを持ってない女子高生なんて存在しているのか。

それとも、お嬢様はそんな世俗的なものは持たないのか?

「じゃあ…家族や友達と連絡取るときは、いつもどうしてるんだ…?」

スマホはないけどガラケーならあります、とか?

あ、それともパソコンのメールでやり取りしてるとか…。

「え?おうちの電話機を使えば良いでしょ?」

まさかの家電。

それだと、家にいるときしか連絡出来ないじゃん。

出先で連絡取りたいときは…?学校の友達との連絡とか、どうしてるんだろう。

時代に置いてかれてんな…。 

洋服の一枚も自分で決められない訳だよ。

「ご飯も作れるし、ケーキ屋さんの場所も調べられるなんて。悠理君の手は魔法の手だねー」

「…ごく一般的な手だと思うけどな…」

俺の手が魔法なんじゃない。

あんたが時代遅れ過ぎるんだよ。

よくもまぁ、ここまで普通に生きてこられたもんだ…。
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