アンハッピー・ウエディング〜前編〜
俺がスマホで調べてみたところ、この付近にあるケーキ屋は3軒。

そのうち、一番近くにあるケーキ屋に向かった。

「わーい。ケーキだー」

ガラスのショーケースに、整然と並べられたカットケーキを見て。

お嬢さんは、子供のように喜んでいた。

良い歳して、ケーキで大興奮するんじゃない。

せめて、店員さんの見てないところでやれ。

恥ずかしいだろ。

「ほら、好きなの選べよ」

確かチョコケーキが良いんだっけ?夢の中に出てきたとか言ってた…。

さすがに、夢で見たのと全く同じケーキは売ってないと思うけど…。

チョコケーキなら置いてあるぞ。チョコクリームケーキとザッハトルテとガトーショコラと…。

しかし、お嬢さんの目には適わなかったらしく。

「うーん…。…どれも美味しそうだけど、何だか種類が少ないね」

え、そうか?

「こんなものじゃないのか…?」

ケーキの種類なんて、俺、よく知らないけど…。

ショートケーキ、チーズケーキ、チョコケーキ、抹茶ケーキ…あとモンブランがあれば、一通り揃ってるんじゃないの?

あとは、プリンとシュークリームがあれば完璧。

他に何を求めてるんだ。

ましてやこのお店、さっき行ったファミレスのように、全国チェーンのお店ではなく。

個人経営の、小さなケーキ屋である。

街のケーキ屋さん、っといったただ住まいだ。

なら、こんなもんじゃないの?

「だって、夢の中だともっといっぱい、色んな種類のチョコケーキがあったよ?」

「いや…それは夢の中だから。現実だとこんなもんだろ…」

「ザッハトルテにガトーショコラに、オレンジチョコといちごチョコとチョコマシュマロケーキに、チョコロールケーキとチョコナッツとチョコキャラメルと、チョコプリンとチョコシュークリームが、全部一つのテーブルに乗ってたんだ」

チョコケーキバイキングか何か?

「何処で買ってきたんだ、そんなに…」

「行きつけのケーキ屋さんだって」

何処だよ、それは。

でも、それも全部夢の中の話だろ?現実じゃ無理だよ。

ましてや、街のケーキ屋さんでそれだけの種類を揃えるのは無理。

大体、そんなに買っても食べ切れないだろ。

鼻血出るぞ。チョコの食べ過ぎで。

…って、あれは迷信なんだっけ?

ともかく。

「妥協しろ、妥協。夢と同じには出来ないよ」

「そっかー、仕方ない…。…じゃ、妥協して…こっちからこっちまで、全部2個ずつ下さい」

なんつー注文してるんだ。

人生で一度はやってみたい大人買いしてんじゃねーぞ。

「えっ…。こ、ここからここまで全種類…ですか?」

店員さん困ってんじゃねーか。ほら。

「済みません嘘です、馬鹿なんですこいつ。ちょっと調子に乗って…」

俺は慌てて、お嬢さんの代わりに店員さんに謝った。
< 59 / 505 >

この作品をシェア

pagetop