アンハッピー・ウエディング〜前編〜
玄関は広々としていて、新しい木の匂いがした。

すげー広い玄関…。これだけで実家の物置きくらいの広さがあるぞ。

新築の家って、こんな綺麗なんだな…。まだあまり生活感が感じられなくて、まるでモデルルームを見学しに来た気分…。

…だったのだが。 

何だろう。新しい木の匂いに混じって、何処か生臭いような…生活感が漂うような…。

…キッチンのゴミ箱みたいな匂いがする。

何なんだ、これは…。

「邪魔するぞ」

俺は靴を脱いで、家に上がった。

邪魔するって言うか…ここに住むんだけどな。俺。

自分の家に入ってきたのに、邪魔するぞ、という挨拶は正しいのかどうか。

それより、家主は居るのだろうか。

まずそれを確認しなければ。

掃除のし甲斐がありそうな、ピカピカの廊下を真っ直ぐに進み。

俺は、広々としたリビングに続く扉を開けた。

すると。

「…!?」

「…zzz…」

目の前に飛び込んできた光景に、俺は思わず言葉を失った。

卓球の試合くらいなら軽く出来そうなくらい、広いリビングダイニングの床には。

カップ麺やレトルト食品のゴミ、ビニール袋、使った後の割り箸なんかが、所狭しと転がっている。

そして、それ以上にたくさんの空のペットボトルが、あちこちに転がっている。

まともに歩いたら、三歩とたたずに躓いて転びそう。

玄関に漂っていた生臭い匂いの正体は、これか。

リビングに転がっている、このゴミの匂い。

ゴミの中に埋もれるように、脱ぎ散らかした衣類やタオルなどの洗濯物が、くちゃくちゃに丸めて投げてあった。

タオルくらいなら、まだ可愛いものだ。 

くちゃくちゃの衣類に紛れて、その、大変言いにくいのだが。

女性用の下着まで、一緒に床に投げられている。

非常に目のやり場に困る。

そして、このとんでもない汚部屋の中で。

大きなソファに寝そべって、すやすやと寝息を立てている女がいた。

年の頃は、俺とあまり変わらない。

学校の制服なのだろう、胸に青いリボンのついた白地のセーラー服を着て、お揃いの青いチェックのスカートを履き。

ソファから半分ずり落ちた格好で、いかにもだらしなく昼寝していた。

「…」

「…zzz…」

…これが記念すべき、俺の花嫁の初対面であった。

ロマンティックに出会いたかった、とまでは言わないから。

出来れば、もっとマシな出会いをしたかったものだ。
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