アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「このチョコケーキと、ザッハトルテとチョコプリンを一つずつください」

改めて、俺が代わりに注文し直した。

結局全部俺が決めてんじゃん。

「えー。折角私が注文したのにー」

お嬢さんがなんかグズグズ言ってるが、無視だ、無視。

店内の商品を買い占めるつもりか?営業妨害だろ。

いくら金に困ってないからって、無駄遣いして良い訳じゃねーから。

つーか、そんなに買っても食べきれないだろ。

俺が注文したことによって、店員さんはホッとしたようにケーキを詰めてくれた。

本当申し訳ないよ。

「お会計924円になりまーす」

だって。

「お嬢さん、お会計…」

「えーっと、これで払うね」

お嬢さんはボロっちいカード入れの中から、金ピカに輝くクレジットカードを取り出した。

あのな。あんた、そんな立派なカードを、そんなボロボロのカード入れに仕舞うんじゃない。

そりゃ確かに、財布にこだわらない層も一定数いるけども。

財布より、中身の方が大事だもんな。

でもあんたの場合、そのゴールデンなクレジットカードが入ってる訳だから。

もうちょっと立派なカード入れに入れてやらないと、その黄金クレカが可哀想だろ。

…すると。

「あ、申し訳ありません。当店は現金のみのお支払いになります」

なんと。

今時としては珍しく、現金のみの支払いしか受け付けていないらしい。

まぁ、個人の店だもんな。未だに現金しか使えなくてもおかしくない。

「えっ、現金…。お金か…」

カードが使えないと聞いて、狼狽えるお嬢さん。

…大丈夫か?

「現金、持ち歩いてないのか?」

買い物全部クレジットカードで済ませているから、現金を持ち歩いてないのかも。

分かるよ。小銭って結構重いもんな。

俺も、財布持ち歩くのやめて、電子マネー決済で買い物全部済ませたいと思ってるんだが…。

でもなぁ、たまにこうやって、電子マネー決済が使えない店があったりするんだよな。

いざってとき、現金がないと不便だから。

それで結局、何だかんだ現金も持ち歩いてるんだよな。

実際こうして、こういうときに役に立ってる。

持ち合わせがないなら、俺が代わりに払おう。

と、思ったが。

「ううん、ある。あるよ」

と言って、お嬢さんはカード入れより更にボロボロな巾着袋を取り出した。

あれが財布代わりなのか。

百均で良いから、もう少しまともな小銭入れを使ってくれ。
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