アンハッピー・ウエディング〜前編〜
新校舎と違うのは、建物だけではなかった。

新入生の為に用意されたパイプ椅子の数は、僅か15にも満たなかった。

え、新入生って、まさかこれだけ?

しかも、空いてる席、俺の席一つだけなんだけど。

俺が遅刻したみたいになってるけど、一応ギリギリセーフ。

番号札と、パイプ椅子に貼り付けられた番号のシールを確認し。

俺は、ギシギシと音を立てるパイプ椅子に座った。

はぁ。やっと着いた。

…着いたけど。

なんか、思ってたのと違う…。

それも、ちょっとどころじゃなく…物凄く違う気がする。

てっきり、男子部の入学式も新校舎で一緒に行われるものだとばかり…。

…すると。

「よっ。重役出勤お疲れ様」

「あ…?」

横のパイプ椅子に座っていた生徒が、俺に声をかけてきた。

俺と同じ、男子部の新入生だった。

「重役出勤…ではないだろ。一応間に合ったんだから」

「あー。まぁそうなんだけど」

「これでも、学校には早く着いてたんだぞ。それなのにいきなり、旧校舎に行けって言われて…」

まさか、新校舎から15分も歩かされるとは思ってなかった。

それに、旧校舎に着いてからもしばらく彷徨ってたしな。

入学式の日に、これだけ色んなトラブルに見舞われたのに。

よくぞ時間に間に合ったもんだ。

「あ?お兄さん、旧校舎で入学式があること知らなかったのか?」

と、隣の席の男子生徒が尋ねてきた。

「知らなかったよ。新入生は皆新校舎の方に集まってたから、てっきりあっちでやるもんだと…」

「新校舎の新入生って、全員女子だろ?男子はこっちだよ。入学試験のときもそうだったじゃん」

そうなの?

知らないんだよ、俺。入学試験受けてないから。

「…ん?でも、入学試験のとき、お兄さんの姿は見なかったな…。いつ試験受けたの?」

ぎくっ。

まさか、裏口入学ですとは言えず。

「…その…推薦入試で。願書と推薦状で合格したから。一般の入学試験は受けてないんだ」

出てきたのは、そんな苦しい言い訳。

「ほーん…?この学校って、推薦入試なんかあったっけ…」

早速、嘘がバレそう。

しかし。

「ま、いっか。お兄さんも新入生なんだろ?自分もだよ」

「それは見たら分かるよ」

「だな。自分、雛堂大也(ひなどう だいや)ってんだ。宜しく」
 
と言って、隣の席の新入生…雛堂大也は握手を求めてきた。

初対面なのに、結構ぐいぐい来るタイプだな。

友達を作りに来た訳じゃない…とはいえ。

クラスメイトと友好的な関係を築けるのであれば、それに越したことはない。

「星見悠理だ。こっちこそ宜しく」

俺は自分も名乗って、雛堂大也と握手を交わした。
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