アンハッピー・ウエディング〜前編〜
入学式の後、新入生一同は体育館から、教室に移動した。

雛堂の言った通り、男子部の新入生の教室は、旧校舎の一室だった。

入学式だけ旧校舎で行って、普段の教室は新校舎の片隅を使わせてもらえる…なんてサービスは、やっぱりなかった。

そんなもんだ。世の中上手く行かないことの方が多い。

でも仕方ないよな。その分学費安いんだから我慢しろ、と言われたら何も言い返せない。

改めて見ると、ボロっちい校舎だよなぁ…。

もうこの旧校舎は、数少ない男子生徒しか使わないもんだからって、手入れも怠っていると見える。

一年生だけで、たかが十数人しかいないってことは。

多分男子部の全校生徒を集めても、五十人にも満たない数だろうからな。

たった数十人の男子生徒の為に、この旧校舎は広過ぎる。

持て余してんだろうなぁ。学校側も。

でも、全く使わなかったら、建物が傷んでいく一方だし。

全く使わないよりは、と毎年僅かでも男子生徒を受け入れてるんだろう。

いっそ旧校舎もリフォームして、もっとたくさん生徒を募って。

聖青薔薇学園男子部も、女子部と同じように力を入れてくれたら良いのに。

それはやらないんだろう。聖青薔薇学園は、あくまで伝統あるお嬢様学校であらなきゃならないから。

男子生徒は二の次って訳だ。

…やっぱり、男女差別じゃね?

男子部の新入生は十数人しかいないので、当然一学年に一クラスしかない。

少ねぇ。

担任の先生も紹介されたけど、いかにも気が弱そうで、ついでにやる気もなさそうな若い教師だった。

形ばかりの挨拶をして、その後教科書が配られた。

それから、この先五日ほどのスケジュールの説明も。

スケジュールって、何のスケジュールだ?って思うだろ?

俺も思った。

そして、担任からそのスケジュールを知らされて、目玉が飛び出たよ。

まさか、そこまでやるかと。

明日の午前中いっぱいかけて、全校で健康診断をして。

午後からは各教科の担当教員から、授業の簡単な説明をされるらしい。

実際に授業が始まるのは、来週の月曜日からだそうだ。

それじゃあ、明後日から来週の月曜日までは何するのか、って?

そこだよ。俺が目玉を飛び出すほど驚いたのは。

健康診断の翌日から、およそ三日間。

俺達は丸一日、ずっと…。

「入学早々、大掃除に駆り出されるとは…。噂には聞いてたけど、男子部の人使い、荒過ぎだろ」

必要なものを全部配り終えて、それじゃ解散、と担任教師が教室を出ていって、すぐ。

俺の前の席に座っていた雛堂が、くるりとこちらを向き。 

入学して早々、最高にうんざりした顔で俺に愚痴った。

…全くだよ。

まさか、俺もこんな目に遭わされるとは思ってなかった。
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