アンハッピー・ウエディング〜前編〜
その日の夜。夕食の時間でのこと。

本日のメニューは煮込みハンバーグである。

入学式から帰ってきて、イチからハンバーグを作ったのか…と思われるかもしれないが。

昨日のうちにタネを仕込み、冷凍しておいたものを解凍して調理しただけだ。

これぞ熟練主夫の時短料理ってな。

時短料理だけど、味は悪くないぞ。

実際、お嬢さんも。

「もぐもぐ。美味しいねハンバーグ」

夢中で頬張っている。

実はこのハンバーグ、にんじんをすり下ろして肉ダネに混ぜ込んである。

勿論、お嬢さんには言ってないけど。

星型のにんじんじゃなくても、すり下ろしてひき肉に混ぜると食べられるんだな。

やっぱり子供舌だ。

このまま、乱切りでもいちょう切りでも、関係なくにんじんが食べられるお嬢さんになって欲しいものだ。

…まぁ、それは良いとして。

「お嬢さんの居る新校舎の女子部も、今日入学式だったんだろ?」

食事中の雑談のつもりで、俺はお嬢さんにそう尋ねた。

「…ほぇ?」

口いっぱいにハンバーグを詰め込んで、きょとんと首を傾げるお嬢さん。

…良いから、まず口の中のものを空にしなさい。

お行儀が悪いぞ。お嬢様だろあんたは。

「ほぇ、じゃなくて…入学式」

「もぐもぐ。ごくん。うん、今日久し振りに学校行ったんだー。そしたら入学式やってた」

春休み明けだからな。

「女子部の新入生って、何人くらいいるんだ?」

「新入生の数?うーんと、百人ちょっとかな?」

やっぱり、男子部の十倍近くいるんだ。

すげーな、女子部…。

「つーか、この近所に百人もお嬢様がいるってことにも驚きだけどな…」

聖青薔薇学園の学区内に、うちのお嬢さんクラスの良家の子女が、よくも一学年に百人も集まったもんだ。  

と、思ったが。

「近所じゃなくても、特急列車や新幹線で通ってる子もいるよ?」

とのこと。

マジかよ。新幹線で学校通うって、マジ?

俺の感覚では信じられない。

学校通うのに、毎日新幹線を利用するのか。

凄いな。徒歩か、チャリか、バスか…遠くても電車で数駅とか…そのくらいだと思ってた。

しかも、高校生で、だぞ?

大学生くらいになったら、新幹線で通うのも分かる気がするけど…。

やべーな、聖青薔薇学園女子部。さすが名の知れたお嬢様学校。

すると、お嬢さんから更なる追加情報が。

「それに、もっと遠くの子は学生寮に入ってるから」

「…え。学生寮?」

「うん、学生寮」

「…」

そんなのあるんだ。あの学校。

それは知らなかった。
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