アンハッピー・ウエディング〜前編〜
俺は、一緒にいた雛堂に質問した。

「雛堂、こいつ誰?」

「んぁ?クラスメイトじゃんよ。覚えてやれよ」

覚えてやれって言われても、昨日初めて会ったばかりだからな。

自己紹介も特にされてないし。

しれっと朝から一緒なんだけど、こいつ誰?何者?

「雛堂の…同じ中学の同級生?とか?」

「いいや?星見の兄さんと同じで、昨日初めて会ったばっかだけど。面白い奴だからさぁ、一緒に掃除しようって声かけたんだ」

雛堂が声をかけたのか。

あんた、本当に初対面でも全く臆さずに声かけるんだな。

ナンパとか得意そう。

「自己紹介が遅れましたね。僕の名前は乙無真珠(おとなし まじゅ)と言います」

「あ、うん。どうも…」

乙無…。乙無…真珠?

なかなか個性的な名前だが…。

「好きに呼んでくださって結構ですよ。所詮この名前は、人間としての仮初めの名前に過ぎませんから」

「は…?」

「本名は別にあるんです。我らが唯一神たる、邪神イングレア様より賜りし、邪神の眷属としての名前が…」

…本名?唯一神?

邪神の眷属って何?

さっきから、ちょっと何言ってんのか分かんない。

「人間に教える義理はないんですが、あなたはこれから一年間、共に同じ学舎で過ごす仲ですから、教えてあげても良いですよ」

「…いや、別に知りたくないけど」

「聞きたいですか?神に賜りし神聖なる名前を」

「いや、だから聞いてないって」

「でも、残念でしたね。迂闊に口にすることは出来ないんです。…無関係の人間にあれこれ詮索されては、面倒ですから」

聞いてないって言ってんじゃん。

「…雛堂、こいつ何なの?」

さっきから、言動が意味不明過ぎるんだけど。

こいつが何言ってんのか、雛堂には理解出来ているのだろうか。

と、思ったが。雛堂は俺の質問に、一言こう答えた。

「な?面白い奴だろ?」

「…」

…これを見て、これを聞いて、「面白い」の一言で片付けるとは。

雛堂、お前の懐の広さは、この旧校舎の敷地並みだな。

「全然意味分かんねぇんだけど、とりあえず乙無って呼ぶわ」

なんか、えらく格好つけた本名(自称)が他にあるらしいけど。

よく意味が分からんし、周囲に言い触らすなって言ってたし。素直に乙無って呼べば良いんだろ?

つーか、普通に「乙無」が本名だろ?

「えぇ、それで構いませんよ。星見悠理さん」

俺は乙無の名前を知らなかったけど、乙無は俺の名前を知っていたらしい。

と言うか、昨日のうちに雛堂にでも聞いていたのかもしれないな。
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