アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「つーか、何で手作業な訳?金持ちの学校なんだから、除草剤撒くなり、草刈り機使えよ」

グチグチ、と愚痴りまくっている雛堂である。

それな。

「多分、新校舎の草むしりは草刈り機で済ませてるんだろうぜ」

「だろうな。お嬢様に草むしりなんて、とてもさせられないだろうし」

白魚のようなお嬢様の手に、雑草の土をつける訳にはいかんもんな。

そういう汚い仕事は、全部俺達男子部の仕事だ。

やっぱり男女差別じゃね?

「乙無の兄さん、あんたもちょっとサボれよ。律儀に草なんか毟ってても、何の得にもならんぞ」

黙々と草を毟る乙無に、雛堂がそう声をかけた。

サボり仲間を増やしていく。

しかし。

「大丈夫。真面目にやってるように見えて、全然真面目にやってませんから。上辺の葉っぱを抜いてるだけで、根っこは全部そのままです」

成程、それも手だな。

一見真面目にやってるように見えるけど、根っこは全部残ってる。

長い間放置されていたせいで、ここの雑草、かなり根が深いんだよ。
 
根っ子から抜こうと思ったら、指で土をぐりぐりほじって抜かなきゃならない。
 
この作業が、結構キツいんだよ。

指痛くなるしな。

なかなか抜けないと、イライラしてくるし。

でも、真面目にやる必要ないもんな。

俺も乙無みたいに、草むしりしてる振りして、根っこはそのまま放置してやろうかな。

適度に力を抜かないと、明日まで持ちそうにないぞ。

掃除するだけなのに、こんなに体力使うとはな。

掃除って、真剣にやるとかなりの重労働だから。

「でも、これだけ延々と雑草畑が続いていると…さすがにやる気がなくなってきますね」

そう言って、乙無は草むしりの手を止め、俺と雛堂の横に腰を下ろした。

乙無も、ちょっと休憩することにしたようだ。

あぁ、そうしろ。

何なら今日一日、もうこのままずっと座ってサボってたい。

バレなきゃ良いだろ。

「全くだぜ。真面目にやってもしょうがないし。しばらくここでダベってようぜ」

と、雛堂。

それも悪くないな。

「よし、乙無の兄さん、何でも良いから話題提供して。なんか喋ってくれ」

乙無に無茶振りを仕掛ける雛堂。

「そう言われましても…。何について話せば良いんですか?」

「折角、三年間同じクラス出過ごすんだぞ?仲良くしておいた方が良いじゃん。ここいらで、親睦を深めておこうぜ」

親睦、って…。

草むしりサボり三人衆が、一体何の親睦を深めようってんだ?

「大体、乙無の兄さん。あんた確か…神様の使いなんだろ?」

何の話だ、と思ったが。

そういや、昨日の自己紹介のとき、そんなこと言ってたっけ…?

「神様の使いじゃありません。邪神イングレア様の眷属です」

あぁ、そう。それそれ。

その設定、今日もまだ生きてるんだな。
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