アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「おぉ、それだ。聞いたことねぇ神様だけど」

俺もねぇよ。

つーか、乙無の言ってること大体分からん。

「邪神イングレア様を知らないとは、これだから人間は…」

やれやれ、と溜め息をつく乙無。

お前も人間だろうがよ。

「神様の眷属パワーで、この面倒臭い草むしり、一瞬で終わらせられねーの?」

「…あなたという人は、イングレア様のお力を、そんな馬鹿げたことに使おうなんて…」

「人を助けるのが神様なんじゃねーの?」

「そういう意味で助けるんじゃありません」

乙無の言うお偉い神様は、人類を草むしりから救うことさえしてくれないのか。

それなら、居ても居なくても大して変わらんな。

まぁ、草むしりを神様に頼るのが間違いってもんだ。

「それに、文句言わずに真面目にやった方が良いかもしれませんよ」

あん?

「今日中に草むしり終わらなかったら、明日も草むしり地獄ですよ」

「…」

「…」

乙無の言葉に、俺と雛堂は互いに顔を見合わせた。

…明日も草むしり地獄…。

それは…嫌だな。

…分かったよ。真面目にやれば良いんだろ。

今日真面目にやっておけば、明日の分減るかもしれないじゃん。

仕方なく、俺と雛堂は草むしりに戻った。

しかし雛堂は、手を動かすと同時に、口も動かさずにはいられないようで。

草をむしりながら、盛んに愚痴っていた。

「しっかし、昨日一日かけて旧校舎の大掃除して、今日は外掃除と草むしりして…。明日は何するんだ?」

…言われてみれば。

いくら持て余してる旧校舎と言えども、十数人がかりで丸一日掃除してたら。

三日目には、もう掃除するところなくなるんじゃね?

明日学校来たら、今度こそ「今日はもうやることないので、自習にします」とか言われるんじゃないか。

それはそれで良い。

二日も頑張ったんだから、三日目くらいは楽させてくれ。

いや、さっきまでサボってたけど。

「明日こそ、ちょっとは楽出来ると良いな…」

ぶちっ、と音を立てて雑草をむしりながら呟いた、この一言が。

まさか、翌日のフラグになるとは…このときの俺達には、知る由もなかった。
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