黒髪の眠りの聖女は永遠の愛を誓う
そのまま眠らずに夜を過ごし、窓の外が明るくなってきた。
ベッドの上で寝返りをうち、ため息をつく。

「本でも読もうかな」

窓を開けると朝の少し冷たい風が入ってきた。
私は頬の傷を触る。

「この傷、なかなか治らないなぁ。傷跡がなんだか黒くなっているのよね」

しばらくソファーで本を読んでいると、部屋の近くの通路を誰かが歩いている足音が聞こえてきた。
こんな時間に?
この部屋に向かって来ている?

コツリと足音が部屋の前で止まった。
だ、誰!?
また誰かが襲ってくるのではと冷や汗が流れ、動悸がする。
でもこの聖女の間には王族以外の人は入れないはず!

「実……」

え?
扉の前で何か言いかけた?
それに、この声は!

コツ、コツ…。

あっ!足音が遠ざかる!
私は急いで扉に近づいて思わず問い掛けた。

「ウィル…様?」

コツ!

「……実桜様」

ウィル様の声!
私は聖女の間の扉の前に立ち、返事をする。

「……はい」

この扉の向こうに…。
そっと扉に手を添えてあの人の名前を呼ぶ。

「ウィル様…」

以前と変わらず、ウィル様の声を聞くと心が温かくなった。

「私の声が怖くはないでしょうか?」

「大丈夫みたい…」

心の中に拡がる安心感にホッとする。
視界いっぱいに涙が溜まり扉が滲んで見える。

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