黒髪の眠りの聖女は永遠の愛を誓う
第八章 聖女の心
「あ、あの…ウィル様…そろそろ」

「あと少しだけ…」

今日の朝もウィル様が私に会いに来てくれて、二人で聖女の間の中庭にいる。

私がいつものようにエーデル王国の街並みに桜の花を風に乗せて景色を見ていたら、後ろからそっと抱きしめられて離してくれない。

「でもお仕事が…。皆待っているんじゃないの?」

「まだ離れたくない。実桜様…」

「ッ!」

想いが通じ合ってからのウィル様は特に甘く私を見つめて愛の言葉を囁く。
ウィル様の美しい顔が近すぎる!
ドキドキし過ぎてサッとまた街並みへと視線を戻す。
桜の花が遠くに見える青い海の方までへと飛んでいる。

「ね、ねえ。エーデル王国の海はやっぱり綺麗な色ね。いつか行ってみたいと言ったことを覚えている?」

「ええ。もちろんです。自然豊かなエーデル王国の海は本当に美しいですよ。必ず一緒に行きましょう」

そうか。
聖女様の能力のお陰で発展しながらも、自然を壊すことがないエーデル王国。
だからこんなにも緑がたくさんある。
海も自然のままに綺麗なんだわ。

「あ、でもまだ先の話になると思うけど…」

まだあんなに遠くまで出掛けるのは無理だから。

「ええ。これから私達はずっと一緒なのです。この先の約束をたくさんしましょう」

「ずっと一緒…」

「そうですよ」

「……嬉しい」

「実桜…!」

私を抱きしめるウィル様の腕に力が入り、さらに密着する。
わっ!またドキドキが!
だってウィル様の眼差しがさっきより…!
私はウィル様の腕をキュッと握った。

「実…」

コンコンコンッ!

「時間切れですー!」

部屋の外からシエナ様が扉を叩く音がして、私の肩に額を着けてため息を溢すウィル様。

「フフッ。お仕事頑張ってね。ウィル様」

「はい。行ってきます。また夜に…」

腕をスルリと離し、名残惜しそうにウィル様は部屋を出て行った。
私はその後ろ姿を見ながらなぜか不安になる。
ウィル様は「ずっと一緒だと」私を包み込んでこんなにも安心させてくれるのに、私はあの悪夢をどうしても思い出してしまう。

「ウィル様…」



< 221 / 257 >

この作品をシェア

pagetop