黒髪の眠りの聖女は永遠の愛を誓う
眠り続けていた聖女が目覚め、それが私だということはまだ公にしていない。
なのでこの訓練は王族のプライベートエリアで行っている。
このエリアに勤める人々は『黒髪』や何事にも偏見を持たない信頼のできる人のみが採用条件になっていて、私にも笑顔で接してくれる。
今日もウィル様と一緒にこのエリアに来た私を出迎えてくれたけど、男の人はちょっと怖いのでまたウィル様の後ろに隠れてしまう。
でも皆優しい人達ばかりで、少しずつ慣れてきた。
だから私の『男性恐怖症』も以前よりは徐々に和らいでいるような気がする。

「ミオ様、練習は順調そうですね」

「あ、ウィル様」

ウィル様はいつも様子を見に来てくれる。
私が操った風で長い金色の髪が靡いていて、今日も優しく瞳を細めて微笑んでいる。

「あれ? 今日はリック様はいらっしゃらないのですか?」

いつもならリック様がウィル様の後ろにいるのに、今日は違う騎士様だわ。

「あぁ、リックは別件で動いていますよ」

「そうなんですね」

いつも一緒にいる訳ではないのね。

「本人は納得していませんでしたけどね」

ウィル様と一緒に来ていた側近として働いているハリー・サイネア様が苦笑している。
ハリー様は水色の髪に茶色の瞳、眼鏡が似合う知的な感じの人だ。
ウィル様と同じくらいスラリと背が高く、見目麗しい二人が並んで歩いていると周りの女性達が頬をほんのりと染めてチラチラと見ている。
お父様はこの王国の宰相様だそうで、ハリー様もウィル様を支える立場となるのだろう。

「意にそぐわない仕事をしているのですか? でもそういう時ってありますよね」

社畜時代を思い出してうんうんと頷く私。

「そうですね」

また手を口元に添えてウィル様をチラリと見るハリー様。

「なんだ? ハリー」

「いえ」

いずれこの王国の重鎮となる二人を眺める。
前世なら17歳って高校生じゃない?
こんなに若いのに国王様の補佐として政治に関わり、勉強をしてお仕事もしているなんてすごいなぁ。
将来有望な二人ね。

「未来ある若き二人が眩しいですね」

私がフフッと微笑みながらポツリと呟いた言葉を聞いて、二人の動きがピタリと止まって固まった。
すると、ハリー様はクルリと後ろを振り向き「ブハッ!し、失礼いたします」と去って行った。

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