黒髪の眠りの聖女は永遠の愛を誓う
「フローレンス！お願いだから出てきておくれ！」

部屋のドアを叩きながら娘の名前を呼ぶ、エーデル王国外務大臣のシャレー侯爵。

「嫌です！お父様なんて大嫌いですわ！お話が違うではありませんか！」

「ゆ、許しておくれ！まさかウィリアム殿下がこのようなことをされるとは誰も思ってもいなかったんだ！」

「ウィリアム殿下の婚約者候補は私が有力とおっしゃっていたではですか！」

「もちろんそうだよ。だが、ここ最近はなかなかその話ができなくてだな……」

「お父様の嘘つき！うぅぅ…！」

「な、泣かないでおくれ！フローレンス！」

愛する妻にも『何をしていたのですか！』と愛想をつかされ、溺愛している娘にはここ数日は顔も見せてくれない状態が続き、相当堪えているシャレー侯爵は細い身体がさらに細くなったようだ。
涙を流しながらドアを叩いている。

一方、部屋の中ではソファーに俯いて座り、顔は赤色の髪に隠れていて泣いているように見えるフローレンス。
弱々しい声色とは打って変わり、顔は般若のように恐ろしい表情になっていた。

テーブルの上を拳でドンッと叩き、紅茶のカップが揺れてガチャンと音が鳴り、侍女達がビクリとした。

「私のフローレンス！なんて可哀想なのかしら！」

フローレンスの隣に座っていた母親のマリーは傷心の娘をギュッと抱きしめる。

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