14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 西島部長はいくつも並んでいるデスクの窓際近くの席で、受話器を置いたところだ。

「名刺をお持ちしました」

 パソコンから私の方に視線を動かした西島部長は「ありがとう」と笑顔で名刺を受け取る。
 そのとき、西島部長の手が箱に入った名刺を持つ私の指を囲むように掴んだ。

 え……?

 数秒経ってから名刺は引き取られる。

「ありがとう。秋葉さんか。君は新入社員?」

 私の首からぶら下げているIDへサッと視線をやってから、爽やかな笑顔を向けられる。
 手が触れて撫でられたような感覚はたまたまだったのかと思い直す。
 一年も隣の部署にいたのに、名前を認知されていなかったようだ。

「いいえ。二年前から総務課にいます」

「そうだったのか。あー、みんなが君の変身に騒いでいた」

「眼鏡を外してヘアサロンへ行っただけです。それでは失礼いたします」

 部署の違う西島部長の耳にまで届いていたことに驚くが、小さく口元を緩ませお辞儀をしたのち、西島部長の元を離れて総務課へ戻った。
 愛華さんはパソコンを打つ手を止める。

「紬希さん、もうランチですよ。行きましょう」

 パソコンの時計を見ると、あと一分でお昼休みになるところだ。

「もうそんな時間。お昼行きましょう」

 デスクの一番下の引き出しからバッグを出して立ち上がった愛華さんと総務課を出た。
 ランチには地下街の蕎麦屋に決めた。
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