14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 瞬時、ポカンとなって男性のくせに女性よりも長いまつ毛を確認した直後、慌ててうしろにのけぞる。

「え? きゃっ!」

 眼鏡を拾おうと体を横にしていたため、背もたれがなくそのままうしろに倒れかけたのだ。
 
 体が四十五度に倒れかけたとき、二の腕が掴まれて引き戻される。

「まったく……、意外とそそっかしい?」

 忽那さんの手が腕から離れて安堵する。

 それは否定できないけれど、引きつる顔をなんとか緩ませた。内心、男性の手に触れられて、心臓がバクバクしている。

 彼はただ単に無様に倒れないように助けてくれただけよ。

「……ありがとう」

 今までの高飛車な態度を取り戻そうと、精いっぱい顎をツンと上げ、無意識にうしろでひとつに結んだ黒髪に手が行く。

「そそっかしいのではなく、急に顔を近づけるので驚いただけよ」

 そう言った瞬間、忽那さんは楽しそうに口元を緩ませる。

「この眼鏡は伊達だろう?」

 ハッとなって仰ぎ見た先に、眼鏡のレンズを覗き込んでいる彼がいた。

「伊達ですけど、必要なものです」

 外出時には二年前から必ずかけなくては落ち着かない必需品だ。

「返してください」

 手を差し出す私に忽那さんは麗しい笑みを浮かべる。

 誰もが見惚れてしまうであろう笑みだ。

 彼はその笑顔が相手に対してどんな風に打撃を与えるか知っているのだ。
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