14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
「美人なのにこれを必要としている背景が気になったな。けど、意地悪はしないでおくよ」

 忽那さんはテンプル(つる)の部分を開き、美人と言われて困惑する私の顔に黒縁眼鏡をかけた。

 それから彼は隣の席の椅子を引いて腰を下ろし、私の方に向けてダークブルーのスラックスに包まれた長い脚を組む。

 話を聞くまでは逃がさないぞという態度がありありとわかり、思わず忽那さんから視線を逸らした矢先、質問が飛んでくる。

「で、君の名前は? 宮崎あやめはどこに? 代理を立てるくらいこの縁談が嫌なんだろうな」

 すっかりバレてしまっている……ちゃんと話さなければ忽那さんは納得しないだろう。

 あやめが不利にならないように話をしなきゃ。

「……私は秋葉紬希(あきばつむぎ)と言います。あやめは親友で……彼女には好きな人がいます。今日はどうしても行かなくてはならない場所があって、直接お会いしてお断りが出来ないので、私が頼まれたんです」

 私が別人だと知られてしまったので、口調は普段の自分に戻っていた。

「ふ~ん……。好きな人が……それにしても君をよこすなんて、彼女は誠実なのか無知なのかわからないな。普通バレるだろう? 電話をかけてこの縁談は無理だと言えばいいのに」

 あやめが私に向かって顔の前で両手を合わせる光景が思い出された。
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