14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 でも、恋人のフリをするとき、今日のように地味にしていればお払い箱になるのではないだろうか。
 
 今、忽那さんは騙そうとしていたことに腹を立てて、私への嫌がらせで恋人のフリをさせようとしているのだ。

 そう考えて、今は調子を合わせることにした。

「……わかりました。忽那さんが必要なときに恋人のフリをします」

 フロントガラスから前を走る国産車から、運転席の彼へ顔を向けると、彼の口角が上がったように見えた。

「で、どこに勤めているの?」

「実は……驚かないでくださいね? 光圀商事の総務課で働いています」

「え? うちの会社に?」

「はい。偶然で腰を抜かしそうになりました」

「なるほど。それは偶然過ぎるな。君は俺の先輩ってわけだ」

 それほど驚いていないみたいだけれど、忽那さんを見ている限りでは頭が回り冷静沈着な人なのだろうと思う。

「先輩じゃありません。忽那さんはニューヨーク支社で働いていたのでしょう?」

「本社では君の方が先輩だ。新卒で入社だよな?」

 彼は会話を楽しんでいるみたいで譲らない。

「いいえ。二年前に転職をしたんです」

「転職を? 中途採用されるなんて、君は優秀なんだな。どうして転職したんだ? うちの方が、給料が良かった?」

 前の会社では、上司にセクハラをされたのが理由だが、それを会ったばかりの人に話す話なのかと迷っていると、車はベイエリアの公園の駐車スペースに到着した。

「そんなところです」

 土曜日なので、パーキングスペースには車がたくさん止められている。

 忽那さんは空いているスペースを見つけて、駐車させた。
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