14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
一、親友の無理難題


 九月の上旬の金曜日。

 十八時の終業時刻になり、勤め先である丸の内に三十一階の自社ビルを構える光圀商事(みつくにしょうじ)の社屋から、地下道で繋がっている道を進み大手町駅のメトロに向かっている。

 女子大学を卒業後、大手証券会社に入社し、営業事務として働いていたが、上司のセクハラが酷くなって二年前退職した。

 その直後から光圀商事の総務課へ転職して、今に至っている。

 女性の先輩や後輩とも仲が良く楽しく仕事をしているが、毎日が単調に過ぎていくことに、二十六歳の私は何かに追われているような焦燥感を覚えていた。
 
 今週もいつもと変わらない生活を過ごし、明日は好きな本を持ってカフェにでも行こうかと考えていたところへ、あやめからメッセージが入った。

【紬希! これから会える? 行っていい?】

 会えることを前提で、すでに行っていい?とあって、苦笑いを浮かべる。

 親友の彼女には私が毎日江東区にあるワンルームマンションの自宅と会社の往復だけで、予定なんて滅多に入っていないことを知っている。

【もちろんよ。気をつけて】

 大手企業の社長令嬢である宮崎あやめは高校からの友人で、私立女子大学も同じ文学部で、今では気心知れた親友である。

 彼女は六本木にある父親の会社で秘書課に勤務しており、通常出勤は愛車だ。なので、今日も車を走らせ、私の住まいの近所のコインパーキングに停めるだろう。

【ご飯買っていくから。これから会社を出るわ】

 すぐに返事が来て、メッセージを読んでスマホを肩から下げているバッグにしまった。
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